第19話 暗黒魔法の追及
私が暗黒魔法を使える、しかも、神様にお願いせずに使えるという理由は一つしか考えられない。
やだなあ。
邪神の骨の影響に決まっている。
本当に私の中にそんなものがあるのか。
いや、レッドがそんな下らない嘘をつくとは思わないけど、やっぱり真実味がなかったんだよねえ。だけど、こうなると信じざるをえないなあ。
とか思いつつ、他にどんな暗黒魔法があるのか。本をめくった。
一時的に五感のうちの一つを失わせる魔法や、嫌な気分にさせ魔力を霧散させる魔法、皮膚の一部を切り裂く魔法というのもあるのか。
どれもこれも暗黒魔法というのに相応しい感じがする。
しかし、どれもイメージが湧かない。
五感のうちの一つを失わせる魔法の方が、虫を召喚するのより難易度が低いと本には記載されているけど、それは邪神にお願いを聞いてもらい易さということなんだろうな。
私は魔法の効果を具体的に思い浮かべられなければならないのだろう。
それに魔法一般に言えることだが、人を対象にする場合、魔法の効果に対して抵抗されることがある。その能力が非常に高い人というのもいるようだ。魔法士や神官というのは自分自身も魔法を使えるだけに、抵抗する力も強いらしい。
私の場合はどうなんだろうな?
イリーナさんに治癒魔法をかけてもらったときはすんなりかかった。
あ、まずい。
そんなことよりも明日、魔法士長に魔法の才能があるか見てもらうことになっているんだった。
自分で言いだしたことだが、私が暗黒魔法を使えるというのがバレるのは、あまり良いことではない気がする。
書庫での作業時間が終わりになり、責任者の人に慰労されたときも上の空だった。
夕食の味もよく分からず、夜ベッドに横になっても、明日のことが気になって眠れない。
いつまでもベッドの上でゴロゴロと煩悶としてしまった。
最後は悩み疲れて寝てしまう。
翌日は朝から強い風雨が窓を叩いていた。
ネズミの巣だと排水が流れ込んで大変なことになっているだろう。
頑丈な建物内の部屋は快適だ。
しかし、この後の魔力テストのことを考えて、私の心は天候と同様にどんよりとしている。
朝食後、私の部屋を魔法士長のジャネットさんが訪れた。
なぜか、イリーナさんとレッドも一緒にいる。
私は内心の不安さを隠して、無邪気さを装うことにした。
「こんなに大勢でどうしたんだい? 僕の豊かな魔法の才能を見にきてくれたってことかな?」
レッドは王様としての仮面を被ったように何も言わない。
イリーナさんはいつも通りの優しい笑みを浮かべていた。
ジャネットさんが魔法の杖を持って身構える。
「それでは、キャズさん。気を楽にしてください」
低く緩く何かをつぶやく。
魔法の杖から眩い白い光が放たれたと思うと消えた。
「ふーむ。これはなかなか……」
ジャネットさんは一人で何か納得するように頷いている。
なによう。もったいぶることないじゃん。
ジャネットさんはレッドに向かって一礼した。
「キャズさんですが、魔力の量はほぼ人並みです。まあ、中程度の魔法を一回使えるかどうかというところですね。その反面、魔法に対する潜在的な抵抗力は、正規の魔法士なみの強さを誇ります。これほどアンバランスなのも珍しいでしょう。もう少し若ければ魔力量を増やすことはできたはずですが、正直に申し上げて時間をかけて魔法士を目指すのは労力に見合わないかと存じます。魔法に対抗する訓練はぜひされた方がいいでしょう」
私は暗黒魔法が使えるのがバレなくてよかったとホッとする。
一応は残念そうなそぶりをすることにした。
「そうですか。残念だなあ。魔法が使えればレッドの役に立てるかと思ったんだけどな」
「随分と殊勝なことを言うじゃないか」
レッドが口を挟む。
「そりゃそうさ。これでも感謝しているんだよ。色々と無理を聞いてもらっているし。だから、僕も少しは役に立てればと思うのは自然だろ」
レッドの口角が上がった。
悪い笑みを張り付けたまま、イリーナさんに問いかける。
「などと言ってますが、高司祭殿。どのようにご覧になります?」
イリーナさんは胸の前で指を組み合わせた。
「キャズさんは魔法に興味があるようなので、偉大なるヴォーダン様の御業の一つをご紹介しましょうか。私たちが魔力検知と呼ぶものです。魔法士の魔法に似たものがありますが、魔力検知は物に封じられた魔力だけでなく、使用されて散じた魔力の痕跡も探ることができます」
「それは凄いですね」
私は話の流れが分からないので無難に答える。
「ええ。その魔法を昨夜、書庫で使用してみました。するとなんということでしょう。暗黒魔法が使用された痕跡がありました」
「そ、それは大変ですね」
「ええ。読まれると都合が悪い本を消し去るために使ったのかと思って焦りました。ただ、それは杞憂だったようです。調査業務に従事していた見習い神官を驚かせただけで、魔力の痕跡は部屋の一点から隅に向かっていただけでしたからね。さあ、キャズさん。全部を話してくれるかしら?」
しまった。あの嫌味を言っていた連中はイリーナさんの監督下にあるんだから、何があったか聞かれれば当然全部そのまま話すだろう。
優秀なイリーナさんなら昆虫召喚魔法のことは当然知っているに決まっている。それで、魔力検知の魔法を使って確認済みだったんだ。
あの場には一人を除いてヴォーダン様に仕える神官しかいない。その一人は私。犯人が分からないなんてことは絶対にない。
「はい。すいません。私がやりました。でも、嫌がらせにブリ虫呼んだだけで、他には何にもしてないです。本当です。別に破壊活動とかそんなことはしてないんで」
「いつから使えるの?」
優しそうな笑みを浮かべている人が一番怖い。
そんな教訓を痛感しながら、私は洗いざらいすべてを白状した。
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