第3話 その日に戻った?
「今、本を買うと本人のサインがもらえますよ。」
その声にハッとする。書店員さんがニコニコと私を見ている。手には朧月小夜さんの小説、「運命」だった。
思わず本を置いて、あたりを見回す。あの本屋だ。
「あのー…。」
書店員さんが声をかけてくる。
「すみません!買いません!絶対、絶対絶対買いませんから!」
私は思わず本屋を飛び出した。見たことのある街並み。見たことのある後継。
「嘘でしょう。」
私はカバンを漁る。見覚えのあるエントリーシート、手帳、ハンカチ、スマホ。私は手帳を取り出す。間違いない。8年前に使っていた手帳だ。中を開く。今日のスケジュール。そうだ。私があの日、すっぽかしたあの会社の面接。
四の五の言っていられなかった。私は会社の面接会場に向かう。向かいながらエントリーシートを確認した。人にぶつかっては謝った。会社の前でHPを読む。思い出せ、あの頃の感覚を。面接時間10分前に会場に入った。エントリーシートと学生の頃の思い出を私は必死に思い出しながら。
「鈴木晴香さん。」
「はい!失礼します!」
誰よりも大きい声を出して、私は面接会場の扉を開いた。
まるでジェットコースターを乗った後みたいだった。私はおぼつかない足取りで、会場を後にする。なんだろう、面接ってこんな感じだったっけ。私が興奮していたせいだろうか。今まで怖いと思っていた面接官が全く怖いと思わなくなっていた。
「大丈夫ですか?」
「すみません、ちょっと色々あって。」
「…鈴木さん?」
「冬賀さん!」
倒れそうになっている私に触れず少し屈んで声をかけてきたのは、唯一私に告白をしてくれた人。冬賀道照さん、その人だった。
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