第24話 ストリートを楽しむ

 私はお義姉様とストリートの買い物などを楽しむ。夜になっても賑やかなストリートは若者のたまり場にもなっている。駅にも近く、さらにその駅ビルにも若者が集まる。


 当然そんな場所は資産家のお義姉様は好まない。


「このような場所は私には似つかわしくないわね」


「申し訳ありません。そのような格好をさせてまでここへ連れてこようと思った私が愚かでした」


「いいえ、私には似つかわしくないと言っただけで嫌とは言ってないわ。それにこういう格好もここでは普通なんでしょ」


「はい、私達を見ておかしいと思わないのもその証拠です」


 怖そうな男に夜遊びをするギャルやカップル。こういった若者がこのストリートで朝から晩まで楽しんでいる。


 教育には悪い場所なのだろうが、それぞれのショップの人達はいい人ばかり。


 ヤンキーだった私にさえ、優しくしてくれる。


 青葉に拾われるまで、ここが私にとっての救いの場だった。


 だからこそ、この店には知り合いも多いし未だに友達だっている。


 最初に行くところはクレープ屋。当時ヤンキーだった私でも甘いものやしょっぱいものは欲しいもの。


 だからダサいとか思わずクレープ屋のクレープは食べていた。


 私がクレープ屋を指さしてお義姉様を誘う。


「あのクレープ屋の店主さんは20代後半の普通のお姉さんなんですけどね。私のようなヤンキーにも親切にしてくださった方でして。クレープおまけなんてのもしてくれたり」


「親切すぎね。そのうち本当の悪党に騙されてお店を潰してしまうわね」


「マジな話でもそんなことは言わないでください」


 いくらお義姉様でもそんな失礼な言葉は許せず、私はお義姉様を睨む。お義姉様もドン引きして、これは言い返せないと判断し私に謝る。


「すまなかったわ。いいすぎたわね」


「分かってくれればいいのです。確かに店主は親切にしすぎるあまり赤字とかでお店を潰すかもしれませんが、経営で大事なのはお客様の信頼だと青葉も言ってました」


「そうね、そう考えると私の今の言葉は大間違いね」


 お義姉様の言葉で暗い気持ちになる私だが、すぐ明るくなってクレープ屋に向かう。


 そのクレープ屋のレジにいたのはバイトのまりちゃんで店主の姿がない。


 まりちゃんは大学2年のアルバイトで私より5つも年上のお姉ちゃんだが、ヤンキーな私とも仲良く接してくれる仲で年下の私に対して敬語を使う。私がクレープ屋に最初に来た時はまりちゃんは私を怖がっていたが、私がこの店の常連だったこともあってすぐに仲良くなった。


 そんな私が久々にここへ来たのだからまりちゃんはびっくりする。


「あれ? 水火さん? 水火さんですよね?」


「あっ、うん……まりちゃん……久しぶり」


 久々の再会で私は緊張する。まりちゃんは私と出会っていろんなことを聞いた。


「そういえば、大丈夫でした?」


「何が?」


「水火さんのお友達さんの事です。どうも水火さんのことを単なるお荷物だとか捨て駒だとか笑っていたものですから」


「聞いていたの?」


「水火さんがいない時にです」


 悪仲間Aさんは、所詮私の事をそんな風にしか見ていなかったことが分かる話だった。しかしそれも解決した話。今では警察に捕まってどうなったかは分からない。そこでまりちゃんがその話を知っているか聞いてみた。


「ところでさ。その私の友達のグループの事なんだけど……」


「はい? どうしたんですか? 悩み事なら聞きます」


「警察に逮捕されたって」


「ええっ⁉ お縄に⁉」


「知らなかったの?」


「はい、そういえば、最近来ないとは思っていました。一体何をやったんですか?」


「それは……」


 このことについては何も言えなかった。私も関わってくる話だが、余計なことをまりちゃんに話して不安にさせたくない。


 そんな気持ちを察したのかまりちゃんはそれ以上私には聞かなかった。


「話せない事なんですね。構いません。こういうことって私みたいな子がどうこう言って解決するものではないですよね」


 がっかりした感じのまりちゃんを見て私はまりちゃんを慰める。


「いいんだよ。まりちゃんがまだバイトしてたっていう事が分かって私も嬉しいんだ」


「ありがとうございます。このバイトは私の生きがいですから。いつか水火さんがまた来てくれることを信じて店長からクレープの作り方も教わって腕もあげましたよ」


 すごい自信を持っているまりちゃん。そんなまりちゃんを見てお義姉様も話しかける。


「あの、話の途中悪いけど、そろそろ注文いい?」


 これにまりちゃんが反応する。


「ああ、すいません。つい盛り上がっちゃいました。それで、あなたは水火さんの新しいお友達さんですか?」


「ふぇっ? いや、私と水火さんはお友達なんてものじゃ」


 そこへ私がまりちゃんに説明に入る。


「お友達じゃなくて……新しくお姉ちゃんになったらいちさん」


「新しい家族? 義理のお姉さんってことでいいんですか?」


 私は嘘でも受け入れてほしいという合図で、笑顔でお義姉様にウィンクする。


 お義姉様はため息をついて説明する。


「そんなところよ。義理の妹が世話になっているわ」


 新しくお姉ちゃんになったというのはあながち嘘ではないがまりちゃんの認識では嘘になるだろう。しかし、そんなことは私にとってはどうでもよく、何よりまりちゃんとの再会を私は喜ぶ。

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