第22話 義姉、私の格好をする。

 しばらくスープを食べながら待っていると、お義姉様が来た。


 私の着ている感じといっても違うところはある。


 ジャケットの部分は半袖の赤いパーカーで、シャツは半袖Tシャツのオレンジ色。半ズボンはピンク色の短パン。ベルトは私と同じ赤いベルト。靴は赤いシューズ。しかもプラスαで赤いキャップ帽子も被っている。


 ちなみにお義姉様はTシャツをシャツインしている。


「色とか種類とか違うところがありますが、お義姉様も似合ってます」


「それ褒めている?」


「はい、私では赤やオレンジなどは似合いません。お義姉様が着ているからこそです」


「そう、でもお腹を見せるのは恥ずかしいから私はシャツインしているわよ」


「それでよいと思います。ファッションは人それぞれですから」


「そうなのね。それじゃあ食事を再会するわ」


 お義姉様は帽子を被りながらも食事を続ける。テーブルマナーは守っていても服装が変わることで見た目も雰囲気も変わっている感じ。


 お義姉様は赤いハットを被ることが多いが、まさか値段が高いキャップを被るとは思っていなかった。


 ハットだと美しさを感じるが、キャップだとかっこよさと元気の良さを感じる。


 お義姉様は私より幼く見えても服装で様々な感じになる不思議な人だった。


 そんな感じでスープを食べていたら、すっかり完食していた。お義姉様もスープは食べきっていた。


 メインディッシュが来るのは時間がかかるようで私とお義姉様は会話をする。


「ところで水火さん、せっかく私がこの格好になったのよ」


「はい、お似合いです。別のお義姉様って感じがします」


「別って何よ?」


「ええと……違ったといいますか……私が分からないお義姉様といいますか」


「あんたは私の事はまだ分かってないわ。だからこれからもお付き合いは必要ね」


「申し訳ございません」


「謝ることじゃないわよ」


 するとお義姉様は普段は私に見せない笑顔で私を見て話す。


「それで、私がこの格好になったならしたいことはない?」


「したいことですか? ですが明日も早いです」


「大丈夫よ。ロープウェイ会社のホテルには執事に頼んで予約済み。しばらくはそこで暮らすわよ」


「よろしいのですか?」


「どうせ屋敷に帰っても私の夫もあんたの夫もいないのよ。それに仕事先が近所なら忘れ物があってもすぐ取りに行けるし、体調不良になってもすぐ帰れる。それに睡眠時間も営業開始1時間前に起床して朝食やシャワーに化粧に着替え。そして仕事先へ向かう」


 お義姉様が予約したホテルは仕事先のロープウェイ会社から車で5分のところ。


 そのため、夜遅く起きていても朝起きるのが遅いため問題なかった。


 特に赤沢家の者は出来る限り遅刻しないように対策をしている。


 そのため、自腹でもホテルで長期予約をするなんてことは当たり前だった。


 そのホテルはこのあたりでは高級ホテルで最上階。


 赤沢家の人間は金持ちで高い金を払って連泊することなど容易。


 むしろ格安ビジネスホテルで節約など論外だった。


 お義姉様は夜の仕事がないプライベートの時間だからこそ、夕食後を楽しみたい。


 それにせっかく私の格好をマネしてみたのだからその格好で楽しめることはないか私に聞いているようだ。


「お義姉様が問題なければよろしいです。どこへ行きますか?」


「何言ってるの? あなたが行きたいと思うところへ行くのよ」


「私が行きたいところですか?」


「そうよ」


 まさかお義姉様が、私が今行きたいと思っている場所へ行こうと考えているなんて想像できないことだった。


 お義姉様は社長令嬢で私は一般市民だった人間。どう考えてもお義姉様が行くなんて考えられない場所へいくことになる。がっかりさせることになる。


 だから私は思うことを伝える。


「あの、それはお義姉様をがっかりさせることになると思います」


「どうして?」


「それは……私は一般市民だった人間で、プライベートといっても厳しい家庭で育ったもので……楽しみたいと思うような……」


「水火さんは確か悪いチンピラだったと青葉から聞いたわよ」


「はい……」


「じゃあ、その時の思い出の場所ってないの?」


「それは……ありました。しかしお義姉様と一緒に行っていいのでしょうか?」


「いいわよ。私が行きたいと思っているんだから。それに、こんな格好をしていれば誰だってお金持ちだなんて思わないわ」


 私とお義姉様が今着ているものも高価な衣服などだが、派手なドレスとかではないため、一般市民が行くような場所でも目立たない。そんな風にお義姉様は考えていた。


 私はお義姉様の覚悟や気持ちを察してお義姉様の願いを聞く。


「お義姉様の気持ちは分かりました。夕食後にその場所へ行きましょう」


 ヤンキーの時代を思い出してしまう事だが、お義姉様に私の事を知ってもらうならば避けては通れない。


 だから私はお義姉様にヤンキー時代によく行くところへ向かうことにした。


 そんなことを思った時にメインディッシュが来た。


 それは、ホイコーロー。豚肉にキャベツも高価なもので出来た辛い料理だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る