第21話 義姉と夕食

 今日1日の仕事が終わったとはいえ、明日もまだまだやらなければいけないことは多い。


 求人広告を待ったりお義姉様の仕事をサポートしたりなどたくさん。


 そんな日の夜は夕食をお義姉様と楽しむ。


 屋敷には青葉もお義兄様も帰ってきていないため、私とお義姉様は外食を選ぶ。ただし高級レストラン。


テーブルマナーの厳しいと感じているかもしれないがこれまで私は青葉にそんなことを言われた覚えはない。


 高級レストランで青葉からテーブルマナーを教わっているから。また、その前から厳しい家庭でテーブルマナーを教わったこともあり、私とお義姉様は何の問題もなく料理を召し上がる。


 その料理店は中華料理屋で、最初に前菜で小松菜の炒め物が出てきた。


 私はお義姉様に感想を聞かれる。


「水火さん、こういったものはお嫌い?」


「いいえ、野菜は大体食べれます。特に中華は好物です」


「ここの小松菜炒めは苦みがあるわよ」


「苦いものはなれています」


「そうなのね」


 私は平気な顔で小松菜炒めを口に運ぶ。


 ちなみにお義姉様は小松菜炒めが嫌いのようだ。理由は苦いから。高級の小松菜を使用しており、あまり味付けをしていない炒め物。


 そのためか、苦みが強い。私も食べてみて思った。


「(高級料理でここまで苦いんだ。でもおいしさは値段じゃないもんね。品だよね)」


 そんな風に思っていた。しかしお義姉様は普通に小松菜炒めを食す私を見て嫉妬していた。


「(何なの? 義弟の妻は⁉ 厳しい家庭で育ったとかは義弟から聞いたけど、苦いのにも耐えられてテーブルマナーも完璧なんて。本当に何者?)」


 様々な疑問を持つお義姉様であるが、苦みに耐え、水を飲みながら完食した。


 私はお義姉様を心配して声をかける。


「大丈夫で……ございますか? 苦い小松菜は……慣れませんか?」


「何よ? さっきからカタコトよ。失礼だと思って言っているなら最初から言わない事」


「申し訳ございません。昔の癖です」


「昔の水火さんは話も出来なかったとか?」


「あの時は……なんといいますか……青葉に恋していたことで緊張もありまして」


「なるほどね。私には分からない事ね。何しろ私は政略結婚だもの」


 青葉の情報だとお義姉様は大手の旅行会社の社長令嬢だったのだが、経営悪化が原因で赤沢グループの傘下になることの条件としてお義兄様と結婚したそうだ。


 一応お義姉様はお義兄様とやっていたらしく、それで21の時に男の子と女の子の双子を出産したようだ。


 その双子も4歳。今は屋敷で教育係に育てられているようだ。


 その一方で私とお義姉様は高級レストランで夕食を楽しんでいるという事。


 ちなみにお義姉様が小松菜炒めの苦みを嫌ってもこのレストランに来た理由は夜景を楽しみたいから。


 このレストランは50階にあり、窓から絶景を見ることが出来る。


 お義姉様は夜景好きでプライベートでは金をかけて様々な高所へ向かう。私は高所恐怖症ではないためお義姉様のプライベートに付き添うことは問題ない。


 ただお義姉様は夜景を見ていなければ幸せな気持ちになれないようだ。


 そのため、料理に嫌いな食べ物を用意されようとも夜景の見える場所へ行くのだ。


 話を料理の話に戻して、前菜の次はスープが出てきた。そのスープというのが、イカやエビ、白菜の入った熱々のスープだ。


「お義姉様、湯気がすごいです」


「これも嫌なのよね。熱々だから。私は熱いのは問題ないけどあなたは?」


「私……猫舌です」


 私は熱いのは苦手。だから主にスープ系の食べ物は基本食べないし、鉄板料理も好まない。


 しかしお義姉様の前でお残しは失礼なので出来ない。だから無理をしてでも飲んだり食べたりする。


「おえ……」


「大丈夫? 無理しなくていいわよ、ゆっくりで。メインはそう早くは来ないわ」


「分かりました。フーフーしながら食べます」


 フーフーと口でスープに息を吹きかけて冷ましたり、ゆっくりとスープの具材を食べる私を嫌らしいと思ったお義姉様は私に気持ちを伝える。


「水火さん」


「どうしました? お行儀が悪いですか?」


「いいえ、なんというか、食べている姿が嫌らしくて」


「それはどういう意味ですか?」


 強めに言ってきた私に対してお義姉様は焦りながら言う。


「ええと、見ていられないと言うか」


「分かりました。直します」


「違うのよ。その感じがいいのよ。見ていられない気持ちなんだけど見ていたいというか」


「はあ、意味が分かりません」


「申し訳ないわね。さあ、ゆっくりと召し上がって」


 そう言ってお義姉様はスープを必死に食べ始めた。すると熱さのあまりスープをこぼし、それがドレスにかかる。


「あっつい!」


「大丈夫ですか? お義姉様」


「大事ないわよ」


「それよりドレスにスープが」


「あ~、お気に入りなのに……着替えてくるわね」


「はい!」


「あ~そうだ。あんたの格好になってみようかしら」


「私のこの私服姿ですか?」


「そうよ。マネっこしてもよい? 色とデザインは多少異なるけどね」


「まあ、構いません。お義姉様が好んで着てくださるならです」


 私のマネの格好。お義姉様がどんな格好をするのか楽しみな私だった。

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