第19話 ロープウェイ会社の業務改正

 私はしばらくの間、ロープウェイ会社が安定するまではお義姉様と一緒にそこへ出勤し続けた。


 もちろん社員全員を見て1人1人がどのような感じなのか社内の様子を探る為。


 社長との打ち合わせを終えた私とお義姉様は社員をオフィスに集め、お義姉様が話をする。


 社員の中にはスーツを着た者とロープウェイで接客をする仕事担当の制服を着た者。メンテナンスを行う作業服を着た者などがいた。


「えーと、この会社の損害賠償やらお客様の信用を失って客が来ないということで業績がかなり悪化しており超絶ブラックだとかやめる社員が後を絶たないとかで会社の業務改正を任された、今日からここの責任者となる赤沢らいちよ」


 赤沢の名を聞いた社員全員が呆然とする。それもそう。赤沢グループの長の一族が会社に来て指示を出していくのだから緊張するもの。社員からしてみれば赤沢一族など天と地。


「ちなみに隣にいるのは私の義理の妹、赤沢水火。こんな格好しているけど彼女には副責任者になってもらうから」


 私のようなジャケットや黒いシャツを着た感じの子にも社員は赤沢という意味で恐れおののいている。


 とはいえ私は16歳だし、社員全員の方が年上で大人。というかこのロープウェイ会社のバイトよりも若い。


 だから副責任者など務まるだろうか心配であった。そんな不安をよそにお義姉様は話を進める。


「社長から仕事の状況を確認したところ、無駄な行動が多く、時間を有効活用出来ていない。おまけにメンテナンスの日も定まっていない。これでは事故が発生しても不思議ではないわね」


 落ち込んでいる社員達だったが、お義姉様はさらに痛い話をする。


「それから、あなた達は会話がまともに出来ないみたいね。そんなんじゃ接客どころか報連相も出来ないわよ。だから、営業時間後にそういったことが出来るようにするための研修を行うわ。その講師も連れてくるわよ」


 こうして、話は終了。私はお義姉様と今後の事について話し合う。


「お義姉様、そこまで強気にならなくとも。それに営業時間後に研修なんて帰社時間を延長するおつもりですか?」


「そうよ。でも残業代は与えるつもりよ」


「社員の負担にならなければ良いです」


 私自身も副責任者としてやっていけるかは不安なところだが、本来ならこういったことは青葉がやること。その代行ならばやるべき。それにお義姉様も私に期待しているようだった。


「あんたは、力仕事って出来たのよね?」


「はい、空手やってました。中学3年の時、初段で終わりました」


「黒帯になった段階ってとこかしら? まあいいわ。じゃああんたはロープウェイのメンテナンス担当ね」


「メンテナンスですか。他のこともあるのでは?」


「全部私がやるわ。メンテナンスがどうにかなったら他の役割でも与えようかしらね」


 そんなこんなで私はメンテナンスの様子を見ることになった。


 メンテナンスを行うのは日ごとによってバラバラだった。これはよろしくないと思い、私は曜日ごとにやるべきメンテナンスを決める。


 まずはメンテナンス担当部の部長さんと話をする。部長さんは50代の男性だがこの人物も会話になれておらず、運動できるかの問題もあった。


「これはこれは……水火様……メンテナンスのことで?」


「私はらいちお義姉様に頼まれて来たの。しばらくはメンテナンスを担当する」


「分かりました。ですが、水火様はどのように業務を遂行なさるので?」


「私もメンテナンスと言っても何をどうしているのか分からない。だから部長さんが教えてほしい」


「はい……」


 部長さんは自信がなさそうな感じ。こういった人物が上に立っていれば良くない。部長を成長させることにも注力しなければいけない。


「ところで、ここ最近残業が続いて無断欠勤ややめる人が後を絶たないそうじゃん。しかも仕事が出来ないとかなんとかで怒鳴り散らす奴もいるみたいね」


「仕事を覚えてテキパキとこなせる人がいないのと、ストレスが原因だったりする者が多く、対処出来ないのです」


「それは下よりも上に問題があるよ。部長さん、メンテナンス担当の社員全員を呼んでほしい」


 部長さんはメンテナンス担当の社員を20分かけて集めた。


「社員が私のところに全員が集まるまで20分もかかっているの?」


「すいません……中々声が届かなくて」


「いいわけは良くないね。でもそれは研修で学ぶべきことだから今は仕方ない。予習として覚えておいて。声が届くようにこういうのは5分で済ませるべき。焦らず冷静に声をかけて」


「かしこまりました」


「それで、今集まった全員の中でこの仕事を辞めたいと思っている人は遠慮なく手を挙げてほしい」


 私の言葉で大半の社員が手を挙げる。ブラックな仕事をしたくない気持ちが伝わる。


「手を挙げた社員と辞めたいけど私の前でそれは失礼だから手を上げられないと思った社員は全員今すぐこの会社を辞めるように。辞表についてだけどそれはいらない。速やかに帰宅してほしい」


 これに対して部長さんは驚く。


「お待ちください、それでは人員不足になります」


「仕事が出来なかったり進まない時点で人員不足のようなもの。それで心が傷ついているなら今すぐに辞めさせるべき」


 部長さんは私の話に困惑した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る