第18話 お義兄様の奥様

 青山という問題社員の解雇から数日後、その日も仕事であったが、お義兄様の奥様、私にとってのお義姉様が私の部屋を訪れた。


 お義姉様は赤いドレスを着ているのに対し、私はいつもの黒いジャケットと黒いシャツなどの私服であるため、そんな格好が気に入らないようだ。


「あなた、なんなのその格好は。そこら辺の一般市民みたいに」


「あの、お義姉様。これらは赤沢グループの衣服屋で購入した高級品です」


「えっ? あら、そう。まあいいわ。それにしては屋敷のものらしくないわね」


 批判されるのは仕方ないが、私にはこの格好が好きな理由がある。理由はかっこいいから。


「なんというか、かっこいいからです」


「単純な答えね。でも気になるの」


「何がですか?」


「お腹」


 お義姉様が私のお腹を指さしながら真顔で答える。仕方ない。そういう服だから。普通にしていればお腹は見えないが、少し体を動かすだけでもチラっとお腹が見えるし、おもいっきり腕をあげればへその下半分が見える。


 とはいえ、お腹が大胆に露出するわけではなく、ちょっとチラ見せ程度。それでもお義姉様には気になることらしかった。


「お腹ですか……こういうのって流行りだと思って……あとお腹が出ていて恥ずかしいとは思っていなくて私はかっこいいかなって。女の子にしか出せない魅力です」


「分からないわね。それに私からしてみればお腹をさらすことは破廉恥というもの。見るのも汚らわしい」


 どうやらお義姉様は私の格好は破廉恥で嫌っているようなので私は謝る。


「これは申し訳ございません。すぐに別の物に着替えます」


「いいわよその格好で。別に着替えろとは言ってない」


「よろしいのですか?」


「赤沢家は仕事でも私服だからね。あなたがその格好がいいというならいいわよ。でも私は破廉恥だと思う。それだけ」


 ほっとするようでほっとしない気分だった。お姉義様の年齢は青葉の情報だと25歳。でも見た目が高校生らしい感じで私と同い年のように見える。茶髪でセミロングに赤いドレスで大人らしさを出しているつもりでも私から見たら同級生としか考えられない。


 それでもお義姉様は悪い人ってわけじゃない。むしろほぼ毎日お酒を飲んで酔っ払っているお義兄様に代わって頑張っているほうだ。


 ちなみに青葉はお義兄様お父様のところへ出張中。


 だから私とお義姉様と一緒にお義兄様と青葉の代理として赤沢グループが運営しているロープウェイの会社へ訪問。


 会社の社長が私とお義姉様をお迎えする。


「これはこれは、らいち様、水火様」


 突然出てきた「らいち」というのはお義姉様の下の名前。らいち様改めお義姉様は社長にお嬢様口調で会話する。


「ごきげんよう、社長」


「あのう、そのような挨拶は不要です。もっと普通で結構です」


「そうなの?」


困っているお義姉様をフォローする形で私が社長と会話する。


「すいません、社長。今日はよろしくお願いします」


「はい、どうぞご案内いたします」


 移動中にお義姉様が私にひそひそ話をする。


「何で余計なことを?」


「こちらの方にお嬢様口調など通じないのではないですか?」


「私はお嬢様なのよ。というか私は女王であなたは王女、姫よ」


「身分は関係ありません。こういった場所では下の者に対しても相手に伝わるような言葉が良いと思います」


「安心なさい。交渉なら何回もやってきたわ」


 私はこのロープウェイ会社のことを調べてきたが、社長を含めコミュニケーションが苦手な人が多いようで今回の件もそれに関すること。


 社会人たるものコミュニケーションは大事。これが不足していれば社会人に必要な報連相が出来ない。


 その相談としてお義姉様はやってきたわけ。


 会議室に入ってお義姉様と私は椅子に座った後、社長はお辞儀をして座る。


「よろしくお願いします。それでは」


 しゃべりなれているようでも会話に慣れていない感じがした。それを察したのはお義姉様だった。


「しゃべりなれていないのね。会話なんて子供でも出来るわよ。社会人たるもの、コミュニケーションはどんな会社に行っても必要なスキル。あなたが出来ていなければ部下が出来ないのも当たり前」


「申し訳ございません」


 お義姉様はいきなり厳しい言葉をかける。しかしグループの会社の悪い状況を直していくには必要なこと。


 だけど厳しすぎてやめてしまいたい人だっている。かつての私もそれが原因で厳しい家庭からヤンキーという道に逃げた。


 厳しくしなければいけないのは社会人として、上に立つ者としては当たり前だろう。


 しかし、厳しさだけが全てではない。コミュニケーション不足でまともに会話が出来ないのは私もそう。だからこの社長にもその部下にも厳しい言葉は言えない。


 だけど改善は出来る。


 そもそもの原因は社員のコミュニケーション不足でロープウェイのお客さんが理解できず、また事故も多発で損害賠償も出ている。


さらに追い打ちをかけるのはアクシデントによる伝達ミスや連絡遅れ。こういったことがこのロープウェイ会社をダメにしている。


 ロープウェイの損害賠償はグループにとってはダメージ。それにお義兄様も青葉も出張中ならお義姉様と協力して何とかするしかない。

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