第19話 やっぱり俺は眠れない
やっぱり俺は眠れない
「笑えてくるでしょ?」
苦しそうに笑ってそう聞く彼女。左腕をぎゅっと握りしめて、痛さで悲しさを紛らわしているのが丸見えだ。
「んーん。全然笑えない。」
「なんで?私が不憫に思わないの?」
「だって、俺といる時はもっと楽しそうだから。別にご両親が残していったのってそれだけじゃないと思うよ。」
俺は淡々と返す。さすがの重たさに少しは動揺したけど、それでも彼女にはこんな顔をして欲しくないから。
「だって、沖田がずっと世話をしていたのは、私じゃなくて、操られて形成されていた私なのよ。どこぞのば「それ以上は言わないで。」」
俺はヒートアップした彼女の口を塞いで、言葉を続ける。
「そうじゃなきゃ、俺と根森さんは出会ってなかったから。」
「……」
「根森さんが今『バカ』って言おうとした2人がいなかったら、俺たちは出会えてないんだから。」
落ち着いた表情になったのを見て、手を外す。
「ごめん。ちょっと熱くなりすぎた。」
根森さんはドリンクを1口飲んで、ふぅ〜っと息を吐く。そして、零れるように言った。
「私だって普通の女の子になりたいよ。」
「……」
「夜寝たいし、昼は起きてたい。それで友達と喋って、休みの日は出かけて、お泊まりして。そんな輝いた高校生活を送りたい。青春をしたい。」
少しずつ声が強くなってくる。ぎゅっと握りしめた右手はずっと震えていて、まだ躊躇っているようだった。
「ねぇ、沖田は私のことを寝かしてくれる?」
今にも泣きそうな目で、震える声でそう訴えてくる。
「まぁ、俺のお節介にずっと付き合ってくれるんだったら、ずっと寝れるだろうな。」
「何それ。変なの。」
根森さんはクスクスと笑って、「あーあ」とため息を1つ。
「ちょっと前から気づいてたんだけどさ。私、沖田のこと好きみたい。」
「おお、光栄だな。それは友達として?」
「んーん、男子として。」
思わず、頬に熱が帯びる。最初はただのお節介だった。けど、彼女の一面を知るうちにどうしても放っておけなくなって、そして、いつの間にか好きになってた。
「俺も、根森さんのこと好きになってたみたい。」
「何それ、最低な告白。………でも、ちょっと嬉しい。」
根森さんはさっきまで震えていた右手で、俺の手を掴む。
「ねぇ、実人。付き合って。そして私を眠らせて。」
「こんな欠点しかない俺でよければよろしくお願いします。」
少し緊張して、ついぎこちなくなってしまう。しょうがない。こういうの初めてだから。
「いきなり改まっちゃって。私たちにそんな壁いらないでしょ。」
「だね、根森さん。」
「ノンノンノン。ちゃーーーんと『蒼依』って呼んで。」
「あ、蒼依。」
「それでよぉし。時間余ってるし歌おっか。」
根森さ…蒼依はマイクを手に取って歌い始めた。その顔にさっきまでの陰りはなかった。
次の日。俺はいつも通り登校する。いつも通り授業の用意をして、いつも通り始業を待っていた。
「おはよ、実人。」
いつもより随分早い時間に来た蒼依は俺に挨拶するなり、隣の席に座る。
「おはよ、蒼依。」
俺も挨拶したら嬉しそうに顔を綻ばせた。
「あっ、そうだ実人。今日ノートよろしくね。」
「はぁ?」
「だって、私にいっぱいお節介焼いてくれるんでしょ?なら、それに耐えられるだけの体力は残しとかないと。じゃあ、おやすみぃ………すぅ〜、すぅ〜……」
彼女はすぐに机に突っ伏して眠ってしまう。
あぁ、やっぱり君の隣は眠れないな。
根森さんの隣は眠れない 136君 @136kunn
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