第16話 俺は夜は眠れない③
「ふわぁぁぁ」
「眠そうやね。」
「うん。ちょっとね。」
ちょっとどころじゃないが、そうやって嘘でもついとかないと何されるか分からない。
俺は落ちそうな瞼を無理やり開けて勉強する。ここはこの公式を使えばいいから、計算は…
「おい、沖田。そこ間違ってるぞ。」
「ん?あぁ、そうだね。ごめん。」
「お前、ホントに大丈夫か?」
「だから、大丈夫やって。」
根森さんの純粋な目が心に響く。少し気まずくなって視線をノートの方に移して、先の問題を進めようとする。すると、根森さんの手が伸びてきて、俺の指に触れた。
「ちょっ!」
「やっぱ熱い。寝てないでしょ。目の下の隈酷いよ。」
「だからいいって。」
「ほんとに危ないの!」
そのまま、俺の手をガシッと掴んでくる。冷たい手で力強く俺の手を掴み、何かを言いたそうに、でも言えなそうに、俺を見つめてくる。
自分でも危ないことくらい知っている。最近は昼間眠たいし、夜は逆に起きているというか。それでも課題が終わる気がしなくて、限界になったら寝る感じにしてたら、いつまでも起きたまんまでいてしまう。朝の新聞配達の音で時間に気づくと、やっとそこで眠気を感じる。もう昼夜逆転してしまったのかもしれない。
「とりあえず、今は寝ること。そんなんじゃ勉強も進むわけないから。」
「だから、今日の晩寝たらいいんだろ?」
「私みたいになって欲しくないの!」
一瞬だけ、空気が冷たくなる。『私みたいになって欲しくない』って、根森さんが夜眠れないみたいな。
根森さんは、はっと何かに気づいたように目を見開いて、そして逸らした。
「ごめん。だから、今は寝て。」
「う、うん。」
「1時間くらいで起こすから、そこら辺で寝てていいよ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
俺はソファーに横になる。「いつか話すから」という彼女の声は聞こえなかった。
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