第9話 ふたりの週末

 そして、週末。俺は根森さんと一緒にいる訳ではなく、普通に過ごしていた。ある一点を除いては。


「実兄!あーそぼ!」

「ちょっと待て!これ終わったらな。」

「えぇ〜、まーてーなーいー!」

「兄さん!ぼくもぼくも!」

「お前もちょっと待っててくれ、夢乃。」

「………」


俺には2人の妹がいる。姉の友香が5歳、妹の夢乃が4歳。平日は保育園が預かってくれてるからある程度自由が利くけど、休日ばかりはそうはいかない。休日も働いている両親がいない間は俺が面倒を見ないといけなくて、そしてその隙間時間を縫って勉強を進めないといけない。


 だからこうやって2人が見えてるところで勉強しようとするのだが、この2人は何故か2人で遊ぶってことをあまりせず、俺がこうやって呼び出されることが多い。というか、毎回だ。


「答えは…よし、合ってる。2人とも遊ぶか!」


本当は勉強したいところだが、この2人の世話を任された身として、2人のお願いは叶えてあげたい。いつまでもいいお兄ちゃんでいたいしな。


「何したい?」

「「そといきたい!」」

「じゃあ準備しようか!」


水筒の準備をして、帽子を被らせて外に出る。まだ真夏には遠いが、それでも少し汗ばむような暑さだ。


 2人が手を繋いで仲良く歩いているところを見ているとなんだか微笑ましくなってくる。ちょっと前まではオムツ替えたりしててたのになとか、あっ、泣きそう。


「みぎみて、ひだりみて、もういっかいみぎみて、てをあげて!」

「わたりまぁーしゅ!」


公園の目の前にある横断歩道も、保育園で習った通りに渡る。うちの妹たちは天使かなにかじゃねぇだろうか。いや、天使だ。


 公園はガランとしていて、日差しが降り注いでいる。誰かが遊んでいてもいい時間なのに誰もいない。


「かしきりだ!」

「かしきりだね!」


うちの妹たちはどこでそんな言葉を覚えたんだろうか。おそらく母さんだな。こういうときはこう言うんだよって教えるから、お茶を飲んだあとは2人とも「くはぁ〜!」って言っている。そんな感じで教えやがったな。


 2人が走り回っているところを、木陰にあるベンチから眺める。まったく、元気なもんだ。


「実兄!おして!」

「ぼくも!」


気がつけば2人ともブランコに座っていて、押すように呼ばれた。暑いけど仕方ないな。


「んじゃ、押すぞ〜!」

「わぁぁぁ!」

「あははっ!」


俺がブランコを押せば、2人は楽しそうに笑う。結局、俺の腕が限界になるまで、押し続けたのだった。

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