第7話 連れてこられたのは?

「えと、ここはどこかな?」

「どこって近所の古本屋やけど。どしたん?」


言われた通り沖田についてきたら、そこにあったのはただの古本屋だった。


「私はなんでこんな所に連れてこられたの?」

「ん〜、俺が布教したいから。」

「……………」


完全に忘れていた。コイツがぼっちな理由。それはめちゃくちゃ変わっているからだ。


 オリエンテーションの日の自己紹介タイム。コイツはその場を使って、布教したんだった。


「このキャラの萌えポイントは…」


「この漫画、アニメ化してるんだけど…」


教室はもう氷河時代を思わせるような寒さだ。先生もさすがに見かねて、「もうそこら辺にしておいて…」と呆れながら止めるほど。「まだまだ語るべき魅力が両手で数え切れないほどあったのに…」って言葉にはさすがに先生も絶句していた。


 そして、古本屋に連れてこられた。冷や汗が止まらない。


「今日はそこそこにしといてね。」

「安心して!根森さんの好きそうなジャンルで攻めるから。正統派がいいやろ?合ってる?」


私の目の前で嬉しそうに目をキラキラさせながら聞いてくる沖田。


「合ってるけど、なんで分かったん?」


そう。しかも合っているから問題だ。普段そういう会話をしないし、読んでいるところを見せたことはない。カバンにつけてるストラップも、スマホの壁紙も、まったく関係のないものだ。それなのに…なんで?


「普段の会話の雰囲気とかで何となくかな?見た目によらずピュアな人やなぁって俺の感覚が言ってたから。」

「そ、そう。」


へぇ〜、私ってそんな感じやったんや。知らんかったな。


「じゃあ行こ!」

「お、おう。」


自動ドアをくぐり抜けて、沖田の本拠地へと入った。


 まず連れてこられたのは110円コーナー。ここにはちょっと古い感じの漫画が置いてある。


「これはね…」


沖田はその中から一冊取って、私に見せながら紹介してくる。たしかに、私が好きなジャンルだ。絵のタッチも申し分ない。ストーリー性もしっかりあって、読み応えがありそうだ。


「ふふっ、気に入ってそう。」

「そんな風に見えるか?」

「俺が漫画を探す目にそっくりやったから。たしか、この漫画は全巻セットが売ってるはず…あったあった。今なら1巻当たり100円で買えるで。」


ビニールに包まれた全巻セットを持ってくる沖田。私の手持ちでも足りる値段だ。


「……………」


しばらく悩んで、財布の中身を見る。足りるね、これ。


「ありがとうございました〜!」


買いました。

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