第4話 帰り道

「くはぁ…終わったぁ〜!」

「ふわぁ〜!よく寝た。」


先生の終礼の後、両手を天井に突き上げて、呟く。根森さんと同じタイミングで。


「根森さんはずっと寝てるから疲れてないやろ?」

「私を舐めたらいかんぜよ。授業終わりにノートを書き写すのだけで、結構体力使うねんから。」


続々と帰っていく中、ここの2人だけが取り残されたような感じだ。周りは「あそこのカフェ行こ!」とか、「今からクラブや」とか。そんな会話は俺達にはなく…


「どっか寄って帰らん?」

「はぁ?」


根森さんからのまさかの提案に、さすがに驚く。そんな青春っぽいこと考えてこともなかった。ぼっちの俺はただ学校で授業を受けて、そのまま帰るだけ。バイトもしていないからそんな学校生活になると決めつけていた。


「これを逃すと、こんな青春っぽいこと無理だと思うけどなぁ。」

「早くもお先真っ暗宣言かよ。」

「で、どうする?」


根森さんは鞄を肩にかけて立ち上がる。「拒否権はありませんよ」か。教室には掃除で残っている奴らが少々。でも、俺たちの会話には全く興味が無い。


「早く行こ!」


本当に俺に拒否権はないらしい。手招きして急かしてくる根森さんの姿は、いつも授業前に見るそれとだいぶ違って見えた。


「分かったよ。」


俺は諦めて、自分の鞄を持って教室を出た。


 我ながらなんでこんな青春っぽいことしてるんだろうなと思う。放課後、西日が照らす商店街。影で天使様と呼ばれてる根森さんと2人でどこかに行くなんて考えてもみなかった。が、実際そうしているわけで。


「なんで俺なん?」


そう訊いてみることにした。俺はなんの特徴もないただのぼっちだ。挨拶が会話だとかは思ってないけど、社交辞令としてやってきた。だから、こんなにも会話が続いたことはない。つまり、友達はいた事がない。


「愚問やな。私が遊びたいって言ってんの。だから、沖田くんはついてきたらいいだけ。ドゥーユーアンダスタン?」

「オーケー。」

「よし。」


やっぱり根森さんは根森さんだ。自分のことは極力口に出さないようにして、他人のことばっか考えてる。いつだってそういう距離を感じていたから、なんとなく分かる。


「で、どこ行きたいん?」

「まずは…」


こんなに楽しそうな根森さんの顔を見たことがない。やっぱりどこにでもいる女子高校生なんだな。そう思えて笑えてくる。


「何笑ってんの?」

「いや、こっちの話。」


高校生活。この3年間は根森さん、君といたら楽しくなりそうだ。

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