第3話 私の隣

 珍しく眠れそうにない。こんなのも私の隣のヤツのせいだ。沖田実人。私が唯一話そうと思った男子。他の奴らは変な目で見てくるから、気持ち悪い。けど、こいつだけはそんな目をしない。ただ、何にも興味がなさそうに、先生の話を聞いて、ノートを書いているだけ。


 だるい月曜日1時間目も、疲れが溜まってきた金曜日6時間目も。たまに起きる時に気づかれないように横目で見るが、寝ていることはたまにあるが、結構な確率で、起きている。


 私にノートを見せるようになった時、初めこそ嫌な顔をしていたが、最近は授業が終わるとノートを私の机に置いてくる。何も言わずに。そしてそのままトイレへ。自分のノートを他人に見せるのは別に問題ないと思うけど、そう何回も何回もやっていると恥ずかしくなってくるようだ。試しにこいつが帰ってきてからもノートを見続けてやったら、顔を真っ赤にして消えていった。


 それはそうとして、今は休み時間。さっきの授業が総合だったので、別にノートをとる必要がなく、授業が終わっても机に突っ伏したままだ。だが、起きている。そして、次は化学。移動教室だ。


「根森さん。起きてるんやろ?」

「ん〜…(演技)」

「起きてるくせに。」


何故か私の前のところに回ってくる。そして、机に手を置いて、しゃがんだ。何されるのかなって顔を少し上げると、べしっとデコピンされる。


「暴力や!暴力!暴力反対!」

「やっぱ起きてた。」

「くそっ、起きちまった。」


私は再び机に突っ伏す。


「次、移動教室。」

「知ってる。」

「じゃあ行こ。」

「やだ。」


私が行っても、実験中もずっと寝てるだけ。みんなに迷惑かけるだけやし。行きたくない。


「さすがに出席しないと点引かれると思うけどなぁ。ただでさえ、寝てるから内申点低いのに。」

「むー、分かった!行くから!」


私がむくっと顔を上げると、すぐ目の前に問題児はいた。


「ハハッ!行くぞ。もう遅れそうだ。」


時計は10時28分を指している。授業開始まであと2分だ。


「走れ走れ!」


誰かと廊下を走るのが楽しいって思ったのはいつぶりだろうか。少なくとも、寝ていた頃はないから…ってことは小学校の時からなかったのか。こんな楽しさがあることも忘れていた。


「そこの2人!走るなー!」


そんな先生の怒った声も嫌にならない。だって、こんなにも楽しいから。


「ギリギリセーフ!」

「危なかった…」


今、私の隣で肩で息をしている、私の隣の席の沖田実人。私の唯一の友人だ。

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