国王の息子達が馬鹿野郎なので嫌気がさし、かつて滅ぼした国に建国する英雄の話。

藤本敏之

黙って聞いてりゃ…

「父上、兎に角この男をクビにしてください!」

そう叫ぶのはバーランド王国の第1王子、シュレン。その後に第2王子、ロルムも続く。

「この男、この国にとっては害でしかありません。」

第1王女、ソニアもそれにかこつけて言う。

「最近ではどこへ行っているのかもわからない、何をしているのかもわからないのですよ?」

そんな風に言われながら、男は謁見の間の真っ赤な絨毯の上で胡座をかいて座って欠伸をしている。自分の事を言われているのはわかっているが、五月蝿いガキ共だなとしか思っていない。

「お前達の言いたいことはわかっている。しかしな、彼は…」

「十年前の英雄…それはわかっていますよ。でも今は…」

「ただの何もしないおっさんじゃないか!」

「あまつさえこんなのとダンジョンに潜れと言われたのよ!」

「我々3人で充分なのに、何故こんなやつを連れて行かねばならないのか!」

そう言われても男は反応せず、今度は耳の穴を穿り出す。

「兎に角、こんな男、とっととこの国から追い出しましょう!」

「そうだ!」

「お父様!」

そう言われた王はタジタジだった。というのは子供達の言葉にではない、男の反応を見てのことだった。今まで黙って座って耳の穴を穿っていた男が、指を耳の穴から抜き、取れた耳垢を指で丸めだしたからだ。

「ルシア、やめてくれ!」

王がそう叫んだのも遅く、ルシアと呼ばれた男は器用に丸めた耳垢3つをシュレン、ロルム、ソニアに向けて指で弾いた。バシュッと変な音がしたかと思うと、ルシアが放った耳垢は3人のこめかみに当たり、あろうことか3人を吹き飛ばして謁見の間の壁に叩きつけるほどの威力を発揮した。その様子を見て、王もその近くにいた王妃、大臣、謁見の間に集まっていた多くの人達が頭を抱えていた。

「ったく、グダグダうるせぇなぁ。黙って聞いてりゃ好き勝手に言いやがって…」

それまで一言も発しなかったルシアが胡座をやめて立ち上がる。

「そもそもクソガキ共、俺が何もしてないってんなら、テメェら両親はもっと何もしてないぞ?俺は外交関係を一手に任されてやってんだ。だいたい、外交に就いたのだってお前らが俺の敎育についてこれねぇぐらい貧弱だからだろうが!」

そう言うとルシアは踵を返して謁見の間から出ていこうとする。

「ルシア…どこへ?」

「クソガキ共に愛想が尽きた。俺はこの国を出る。」

「待ってください、それは…」

王と王妃はルシアを引き留めようとして、門番もルシアの行く手を阻もうとする。が、ルシアから恐ろしい…いや、悍ましいまでの殺気をあてられて征く道を空けるしかなかった。

「じゃあな、そこのボンクラ共に最後に伝えといてくれ。次に会うときは戦場だろうからって。」

そう言い残してルシアは謁見の間を出ていった。

「あなた…」

「ウム…困ったことになった…」

元々この世界には7つの国があり、バーランドはその内の一つでしかない。バーランド、キーン、ソルドン、レンク、シャーナ、ロッテル、ボルムの7国は、それぞれ英雄を抱えている。英雄とは、かつて8国だった現在の7国の他の中央に位置した今は無き8国目、ディランダ王国の制圧を成し遂げた7国の代表とも言うべき者たちだ。ディランダ王国は十年前、残りの7国に宣戦布告し、暴虐の限りを尽くした。その際7国最強の者たちが集い、ディランダ王国を滅ぼしたのだった。その内の1人、ルシアはバーランド代表であり、戦闘能力は7国代表最強とまで言われていた。その男が立ち去ってしまったとなっては…他の6国からどう思われるか…王と王妃は考えたくもなかった。


謁見の間を出て、城の外までやってくると、ルシアは指笛を吹く。すると直ぐに空から大きな龍が降りてきた。

「ルシア…どうしたの?」

龍が話しかけてきた。ルシアはその龍の頭を撫でて話しかける。

「ティーア、この国とおさらば出来ることになった。悪いがディランダ王国の跡地へ連れてってくれないか?」

「ルシアが望むなら。」

そうしてルシアがティーアに跨り、1人と1匹は空へ悠々と飛び出した。

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国王の息子達が馬鹿野郎なので嫌気がさし、かつて滅ぼした国に建国する英雄の話。 藤本敏之 @asagi1984

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