第3話 トイレの女神様②

「ああ、それ“便所メシ“ですね。」


「……便所メシ?」


さっきの雨宮の状況をこの学校のスクールカウンセラーである松井先生に聞いたところ、聞きなれない単語が聞こえて来た。


「あれ?聞いたことありません?」


「いや、聞いたことはありますよ。…でも、いるんですね。する生徒。」


「まー今時珍しくありませんよ?特にああいう子は。」


松井の言葉に朽舞は何となく腑に落ちたものの、便所メシをするという事自体、朽舞はあまり理解を示そうとしなかった。


「で?で?先生はどうやって教員免許を取ったのですか?あ、偽装だとしてもバラさないので安心して下さい!こんな面白い事なんてなかなかありませんからぁ!!!!」


松井は生徒や先生の相談に親身に乗る良い先生なんだが、修羅場などの展開が大好物という、玉に傷ともいうべき欠点があった。だから問題児だらけのクラスの担任となった未成年の教師である朽舞に対して、興味津々だった。


「…すいませんが、次の授業の準備があるので。」


「あっちょっと!朽舞先生ー!」


朽舞は何となく身の危険を感じて、その場から去っていった。


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学校の授業が終わり空が橙色に染まった頃、朽舞は学校の男子トイレの中にいた。そして両手には菓子パンと飲み物を持っていた。


「……………。」


そしてひとくち、菓子パンを齧ってみた。

パンのパサパサ感と、中に入っていた苺ジャムの味が口の中に広がった。


「……………。」


次はもう片方の手に持っていたお茶を飲んでみた。

先ほどの菓子パンの味が流し込まれて、すっきりとした渋い味がした。

朽舞はこの流れをただひたすら、無くなるまでずっと繰り返していった。

そして、ついに菓子パンと飲み物が無くなった。


「………………………良いじゃん、便所メシ。」


朽舞の人生で初めての便所メシは、割と好評化のようだった。


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『あっもしもし、いつもお世話になっています。雨宮美香の母です。今朝から体調が悪いようなので、休ませて貰ってもよろしいでしょうか?』


「はい、分かりました。お大事に。」


人生初めての便所飯の翌日、雨宮の母から体調不良による欠席を伝えられた。

だけどこの連絡は実質、雨宮が不登校になってしまったという事実に変わり無かった。


「宮本先生、今から雨宮さんの家に挨拶向かうので、代理よろしくお願いします。」


「え!?あ、はい…。」(はぁ!?何で俺に押し付けんだよ!?仕事増えたじゃねーか!?)


しかし、こんな時でも朽舞のテンションは変わらず、何と仕事を全て宮野に丸投げして学校を出て行ってしまった。


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ガラガラガラガラ


雨宮の家に着いた朽舞は、家の横引き戸を引いた。

雨宮の家は近所でもちょっと有名な和食専門の飲食店だ。

すると、中から元気で活発そうなおばちゃんが出てきた。

おそらく雨宮の母親だろう、それにしても彼女とはえらい違いだった。


「あら、こんな時間にどうしたの?学校は?」


雨宮の母の言葉は可笑しくなかった。

まだ14歳の少年がこんな真っ昼間から飲食店に来たんだから、心配するのは可笑しくない。


「初めまして、雨宮のお母さん。今年から雨宮さんのクラスの担任を務めてさせてもらう朽舞です。」


しかし、朽舞はただの14歳じゃなく、教師だった。


「………え?」


「もしよろしければ、雨宮さんと少しお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」


「あー…えっと、美香ぁ〜!担任の先生?が来てくれたわよ〜?」


未だ上記が呑み込めないものの、雨宮に朽舞が来てくれた事を伝えた。

しかし雨宮から返事は無かった。


「すみません…このところ具合が悪いみたいで…。」


「そうですか…、では、少しお話しだけでも出来ませんか?」


しかし朽舞はまだ引く訳にはいかなかった。

“不登校になりかけの児童”。この光景を、朽舞は見た事があった。


「どうでしょう…うちでも中々話す事なんて…。」


「少しだけでも良いんです、お願いします。」


そしてその子が、一体どういう人生クソみたいな日常を送り一体どういう結末を遂げたのかを。


「……分かりました。娘は2階の、下の名前が書かれたネームプレートがかけられた部屋にいます。」


「…ありがとうございます、お母さん。」


母親は雨宮の部屋の場所を教えて、案内した

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悪魔と牧師 眼には目を、歯には歯を、悪魔には救済を 朽舞仁 @akutu1baba2sakuragi3

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