第29話



 カランコロン。


 写真館のドアベルが鳴る。「いらっしゃいませ。」と声を掛けると、穏やかな雰囲気の女性が会釈をし「先日撮っていただいた、写真を受け取りに来ました。」と告げた。



 名前を訊ね、準備されている写真の中から女性の物を探す。注文票を確認すると、先日の婚活写真を撮った女性だと気付いた。



「確認をお願い致します。」



「はい。……わぁ、良い感じです!」



「そう言って頂けると安心しました。」



 和やかに会話していると、女性の腕の中から「たぁっ!」と可愛らしい声が上がる。女性に抱きかかえられた赤ちゃんは機嫌よく時折声を上げている。



 そう、あの日婚活写真を撮影に来た彼女はシングルマザーで、彼女のようなシングルの方に向けた婚活サービスを利用しようと考えているようだ。尚也さんの”可愛い”の言葉は赤ちゃんへのものだった。「梨奈ちゃん以外の女性に可愛いなんて言わないよ。」という甘い言葉を囁かれ、尚也さんは私の反応を楽しんでいるようだった。




「ありがとうございました。」


 女性と赤ちゃんを見送っていると、「あ、取りに来てた?」と尚也さんが奥から顔を見せた。「はい。」と頷くと「ありがとう。」と笑いながら、婚活写真のチラシを手に取った。



「うーん……。」



「どうしたんです?」



「婚活写真、あんまり人気なくてさ。無くしても良いかなって。」



 それはもしかしたら私のための言葉だったかもしれない。婚活写真を撮りに来るのは独身の女性が多い。婚活写真のプランが無くなれば、尚也さんが独身の女性と会う機会は格段に減る。それは魅力的ではあるけれど……。



「……婚活写真のプラン、残せませんか?」



「うん?」



「はい、だってこれは……。」



 この言葉をホームページで見て、私は尚也さんに会うことが出来たのだから。そう伝えると、尚也さんは大きく頷いて笑顔を見せた。






『婚活写真、お撮りします。』







〈婚活写真、お撮りします:完〉




 お読みいただいた皆様、心から感謝いたします。ありがとうございました!

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婚活写真、お撮りします。 たまこ @tamako25

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