第18話


 あの頃、私は仕事をしなくなった彼と離れることが出来なかった。仕事はまだまだ若手の立場で、毎日朝早くから夜遅くまで働かなければならなかった。へとへとになって帰っても、食事が出来ている訳でも、部屋がきれいになっている訳でも無かった。



 ちゃんと家のことが出来ず、へとへとになってコミュニケーションもあまり取れず、デートも大して行けない私に、彼は不満を溜めていたようだ。ある時、彼のスマホのホーム画面に、知らない女性からのメッセージが表示された。それは、愛し合う恋人同士のような、甘い言葉だった。



 私はすぐ彼を問い詰めた。だが、彼は謝ることは無かった。



「話を聞かない、お前が悪い。」



「家のことも何にもしない、お前が悪い。」



「働いているからって偉そうにしている、お前が悪い。」



「全部、お前が悪い。」



 彼はその時、私がいかに駄目な人間か懇々と話していた。彼は「別れても良い。」と言った。だが、それでも私は彼から離れることは出来なかった。私はこの頃から、ずっと自分が悪かったのだという思いに囚われ続けている。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る