第17話


「ちょっと、駄目です!」


 佐藤さんが私の手を握ろうとするのを、私は振り払った。一瞬、酷い態度を取ってしまったと罪の意識に苛まれるが、佐藤さんはいつものように笑った。



「えぇ、駄目?」



「そんな顔しても駄目です!」



「さっきは支えてくれたのに。」



「あれは介護です!」



「あ、やっぱりおじさん扱いしてる……。」



 わざと拗ねたような表情を見せる佐藤さんに、私は内心ホッとする。だが、次の言葉に佐藤さんの表情は気難しいものに変わった。



「体調が万全ではないから、寂しくなってるだけですよ。」



「……梨奈ちゃん、本気で言ってる?」



「え……。」



 佐藤さんに真っすぐ見据えられ、私は目を逸らすことが出来ない。



「梨奈ちゃんがここに来てから、三か月間、ずっと梨奈ちゃんのこと好きだよ。」



「……っ。」



「だから手も繋ぎたいし、一緒にいたいよ。……気の迷いなんてものじゃない。」



「ご、ごめんなさい……。」



 目に涙が浮かび、身体を硬直させる私を見て、佐藤さんはまた笑顔を浮かべた。



「酷いなぁ、あんなにデートしてるのに。」



「デ、デートなんて!」



「定休日にいつも出掛けてるでしょ。」



「あ、あれは広報誌の撮影で……仕事みたいなものだから……。」



「梨奈ちゃん、信じてたの……。」



「え!広報誌の撮影じゃなかったんですか?!」



 私は目を丸くすると、佐藤さんはケラケラと笑い始めた。



「広報誌に使うものもあるけど、あんなに沢山は必要ないんだよ。月に一回しか発行しないんだから。梨奈ちゃんのそういうところ……。」



 面倒くさい?つまらない?冗談が通じない?


 佐藤さんの次の言葉を、私は怯えながら待った。





「ほんと、好きだなぁ。」



「……え。」



 私の呆気に取られた表情を見て、佐藤さんは私に優しく微笑んだ。



「梨奈ちゃん。好意を向けられるのは、辛い?」



 その問いの答えを、私は持っていない。




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