第16話



「何でもっと早く呼ばないんですか!!」


「ご、ごめんね?」



 私の叫び声が響くのは写真館、の奥にある佐藤さんの住居スペース。ピクリとも動けない相手に私が雷を落としているのには、勿論理由があった。


 あれから定休日の度に、広報誌の撮影に付き合っていた。定休日に会うことが三回ほど続いて、昨日の定休日にも撮影に出かける予定だった。だが昨日の朝、急に「今日行けなくなっちゃった、ごめんね。」というメールが届き、中止となった。


 そして、今日、いつものように出勤すると写真館の入り口が開いていない。渡されている鍵を使い、写真館に入ると、奥から佐藤さんの声が聞こえ、恐る恐る初めて住居スペースにお邪魔すると、リビングのソファに横になっている佐藤さんを見つけた。




「ぎっくり腰、やっちゃった……。」


 そう佐藤さんが言い、私は目を丸くした。話を聞くと、昨日の朝、床に置いている荷物を取ろうとした時にやってしまったが、自室は二階にあり、ベッドまで行けなかったようだ。つまり、丸一日佐藤さんはソファの上にいた、ということだ。こうして、私の雷は落ちたのだ。



「ぎっくり腰なんて、こんな場所で寝ていたら治りませんよ!」


 私はしつこく叱責しながら、寝具の場所を聞いた。一階にある客室の折り畳みのベッドをリビングへ引っ張り出す。布団をセットし、佐藤さんに手を貸しながらベッドへ移動する。横向きが楽なようなので、クッションを背中側に置くと、佐藤さんはほっと息をついた。



「もしかしたら、今日には良くなっているかなぁって。」



「そんなに早く良くなりませんよ。」



「だってさ……。」



 珍しく言い淀む佐藤さんの顔を覗き込むと、視線を逸らされる。



「佐藤さん?」



「……かっこ悪いでしょ。ぎっくり腰なんて。おじさんだと思われたくないし。」


 拗ねたような佐藤さんの顔を見て私は思わず噴き出した。



「あ、ひどい。」



「ふふふ。私なんて二十代前半からしょっちゅうやってますよ。保育士の職業病みたいなものです。」



「そうなの?」



 目を丸くする佐藤さんへ、私は頷いて見せた。



「……煩く言ってごめんなさい。だけど、こんな時は遠慮なく呼んでくださいね……心配なので。」


 私の言葉に、佐藤さんは暫く固まった後、にんまりと笑顔を見せた。



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