第15話



 初めて彼女に会った時、随分可愛らしい人だと思った。



 あの日、いつものように写真館のカウンターに座っていると、入り口の前に百面相している彼女を見つけた。最初は、やる気に満ちた顔をしていて、その内、不安の色が濃くなって、それが妙に可愛くて……結局諦めたようにドアを開けた彼女の不安をどうにか取り除きたくて、俺はいつもより優しく笑うよう努めた。



 どんな用事かな、と思っていたら、彼女の口からは「婚活写真を撮ってほしい」という意外な言葉が出てきた。そして、彼女と会ったばかりの俺の中に、他の人と結婚してほしくないという、仄暗い、独占欲のような思いがじわりと溢れた。そして、気付いたら「俺と付き合ってほしい」なんて言葉が、俺の口から飛び出していた。



 彼女―――梨奈ちゃんは、元来お人好しな性格で、こんなはた迷惑な俺の告白も躱すことが出来ず、困った挙句、写真館でアルバイトしてくれると言った。


 梨奈ちゃんの仕事ぶりは、いつも丁寧で、お客さんからも人気だった。保育士をしていたこともあって、子どもへの対応も上手だし、何より子どもといる時が一番、彼女の笑顔が輝いている。


 あと、美味しいものが大好きで、俺と出掛けるのに抵抗がある癖に、美味しいものを餌にすると葛藤しながらついてくるところが可愛い。可愛すぎる。



 だけど、梨奈ちゃんはところどころで、自信が無い様子が見え、俺がお礼を言ったり、褒めたりしても、あまり受け取ってもらえない。梨奈ちゃんと、何度か職場の外で食事をしたり、一緒に過ごしたりしている内に、少しずつ、ほんの少しずつ、良い方向に変わっていると思ってはいるが、道のりはまだ長いだろう。



 最近の俺は、梨奈ちゃんのことばかり考えて、美味しいお店を探したり、広報誌の撮影と称して何度もデートスポットへ連れ出している。そんな風に浮かれていたから、バチが当たったのかもしれない。


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