第14話
暫く写真を撮影した後、佐藤さんは嬉しそうに目を細めた。
「梨奈ちゃんのおかげで、撮影できたよ。ありがとう。」
「たまたま見つけただけですよ。」
「うん。それでも嬉しいんだよ。」
一人で行くと何時間もかかることもあるからさ、と佐藤さんは照れたように笑った。
「思ったより早く終わったから、少し散歩してから行かない?」
昼食の時間にはまだ早い。私が頷くと「良かった。」と笑う。佐藤さんの、斜め後ろを歩きながら他愛ない会話を交わす。私は、少しずつ佐藤さんの隣にいることが居心地が良く感じるようになっていて、それが酷く恐ろしい。
「梨奈ちゃん。」
「はい。」
「この街には慣れてきた?困ったことは無い?」
困ったこと……。仕事は楽しくて、お客さんはみんな優しい。自分の時間も十分取れるし、節約生活も慣れてきて、たまに有り付ける美味しいものが、より美味しく感じられる。何より、雇い主は、詐欺かと疑いたくなるほど甘い。甘すぎる。
「……困ったことが無さ過ぎて、困っています。」
佐藤さんは一瞬驚いた顔を見せた後、心底嬉しそうに微笑んだ。私は、この時間を失うことを恐れる程度には、佐藤さんとの時間を気に入っている。だからこそ、佐藤さんが笑う度、心が悲鳴を上げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます