第13話
「わぁ……。」
思わず漏らした声に、佐藤さんは満足そうに笑った。
あの時、来月分の広報誌の写真の撮影に付き合ってほしいとお願いされた。写真館の定休日に、仕事外で会うことに抵抗が無かった訳ではない。だが、「帰りに美味しい海鮮料理のお店に行こうよ。」という言葉に、私は呆気なく頷いてしまった。
今日は、町内にある河原へやって来た。澄んだ川の景色に、思わず頬が緩む。河原を当てもなく二人並んで歩いていると「ピンと来た風景があったら、遠慮なく教えてね。」と佐藤さんから言われた……が、全く分からない。取り敢えずキョロキョロしながら、何か良いものは無いかと見渡す。
(それにしても……。)
こんな風に、のんびりと自然が豊かな場所を歩くなんて、いつぶりだろう。夏前の眩しい日差しも、川の水音も、温い風すらも心地よい。
「っ、わっ!」
「っと、大丈夫?」
物思いに耽っていたら、足を取られ、躓きかけたところを佐藤さんに支えられる。密着した身体から、思った以上に逞しい腕や、爽やかなウッド系の香水の香りが感じられ、身体中に熱が駆け巡る。
「……っ、大丈夫です!ありがとうございます……あ、佐藤さん!」
恐らく赤くなっているだろう顔や、熱の籠った身体を誤魔化すように、私は指さした。
「ああ。これいいかもね。」
私が指さした先には、薄紫色の野花が咲いていた。どこにでもあるような花だが、妙に力強さを感じた。野花を真剣な眼差しで撮影する佐藤さんの横顔を、ぼんやり眺めながら、私は熱を冷ましていた。
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