第三章 名も無き少女の物語 2

深夜、なかなか眠れずにいた長身細身な男はあることを思い出す。

「……そういえば、彼女の名前を聞いてなかったな……」

今はいいか……と考えを振りほどき、気分転換に女性のいる、外に向かう事にした。


そこで目にしたのは…

「……(グズ)……会い……たいよ……(ヒック)……▫▫く……ん……▫▫くん……(ヒック)貴方に……会い……たい……よ……」

静かにされど、どこか触れてはいけないような『儚さ』を思わせるその姿に、眼が奪われてしまった。


(これまで、必死に我慢して生きてきたんだろうな)

その道のりを、自分には理解する事は出来ないとわかりながら、かける言葉を考える。


「!……誰です? 」

女性が何かに気付いた様に聞いてきた。

「……申し訳ありません。盗み見るつもりは無かったのです……」


眠れずに起きてきた事に女性は察する。

「覗きは、他の人にも軽蔑されますよ。」

涙を拭いながら告げる。

「承知してるのですが、何分眠れなかったので、もう少し話したくなりました。

ただ……声をかけずらくて覗き見のような行いになってしまい、申し訳ありません」

正直に答え再度頭を下げて、謝罪した。


「わかりました。今回の事には目を瞑りますが、以後気をつけてください」

赤く染めた目で謝罪を了承し再び、焚き火に目を落とす。


男性1「ありがとうございます。……となり良いですか? 」

「……どうぞ」

女性の隣に座り、話しかける。


「改めて、先日は助けていただき、ありがとうございました。」

「お礼は、先日にも聞きました。他の方は残念でしたが……」

「助けていただいたことを、何度感謝してもしたりない位です。

私達は、村から村、町から町を旅しながら、吟遊詩人物語を語り唄う者の集団でした。

それぞれが得意な物語を唄う、世間からみたら異質な集団だと自覚してます」


「……」

女性が何を唐突に、と無言で見てくる。

「貴女が話してくれたように、私も話したくなりました」

『そうですか』と静かに告げる。

「貴女を見ていて、私がこの職業についたきっかけを思い出す事が出来ました。

……私は、皆に楽しく聞いてもらいたかった。勇気つけたかった、その為に物語を語り唄う者になったのです」


男性はあの日死を悟った。だか、隣にいる女性に助けられ生き延びる事が出来た。

偶然とはいえ、自分が目指したモノが何か思い出すきっかけも貰えた。


「だから、あの話を、歌にさせてください」

無慈悲な世界に光を差す。優しい唄になると考えながら、女性にお願いする。


だが、その可否を女性が語る事はなく、1分にもおよぶ時間を見つめあった頃。

「アナタは…正義とは…なんだと思いますか? 」


「 ??? 」

女性の質問の意図が分からない。

「悪とは…なんだと思いますか? 」

女性は、まだ問いかける。

「……わかりません」

考え、彼女の求める『答え』がわからず、答えられないと理解する。


「彼は、私達の『英雄』でした……でも、彼は、自分の事を『悪』だと。

と答えます」


『貴方には、何故だかわかりますか? 』、儚く笑いながら女性が尋ねてくる。



                続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る