第一章 始まりの物語 2
見張り役の男が変化の無い退屈な時間につい居眠りをしてしまった頃、黒髪の少年が他の捕まった子達を静かに起こした。
「みんな起きてくれ、此処から逃げるぞ───静かに、動いてくれ」
「……むぅ……何だよ、こんな夜中に……それに、逃げるって何処にだよ?」
「そうだよ……どうやって逃げるの?」
「……」
激昂する者、困惑する者、怯える者、そして……
「どうやって、逃げるの?」
静かに、問いかける者。
「相手は、見張り以外は寝ている。
そして、この時間なら見張りも居眠りしている事が多い。
だから、チャンスは1度きりで交代がくる迄の間しかない」
声を潜めて静かに黒髪の少年が答える。
(だけど、相手の人数がわからない。
逃げきれる可能性も低い、相手は大人だし、子供の足で逃げきれるか?)
少年「とにかく、時間が惜しい。──急ぐぞ」
静かに見つめあった後に、頷く4人。
それから、静かに警戒しながら道を進むが、不意に来た方から声が聴こえる。
「おい、交代の時間だ。・・って、寝てんじゃねぇよ」
「……んぁ……あぁ、わりぃ。つい、寝ちまたわ」
「たく、それでガキ共はどうだ?」
「静かなもんだせ、起きる素振りもねぇよ」
「そうか……とりあえず……一応確認しておくか」
(ヤバい、バレる!)
見つかるかもしれない焦りで鼓動が速くなる。
「暗いから見えないだろう。 明日の朝にでも確認したら良いじゃねぇか」
「それもそうだな」
ガハハと笑い合う声が聴こえる。
(助かった……。 それよりも早く逃げないと)
安堵しつつ気持ちを切り替えて、出口を探す。
(とりあえず……時間は稼げたが、どうする)
「ねぇ、どうするの?」
茶髪の少女が尋ねる。
「今……考えてるところだ」
「考えずに、逃げようとしたのかよ」
呆れる赤髪の少年の言葉に、2人の少女は、泣きそうな眼で見てくる。
「仕方ないだろ、状況がわからないんだから。
それとも……あのまま、捕まっていたいのか」
何も言い返せず、うつむく赤髪の少年。
「とにかく、急ぐぞ」
黒髪の少年は、皆にそう伝える。
何処まで進んだかわからない。
着いた先は……
「ここって、もしかして……」
「……あぁ、武器庫みたいだな」
黒髪の少年はしばらく考えながら、答える。
(助かる可能性が増えたな、さて……どうするか)
「ここの武器って持っていって良いのかな? 」
「私、持ったことないよ」
「ボクも…(コク)」
「ここに来ちまったけど、どうする気だよ?」
皆、思い思いに言葉を交わし合う。
「…っ」
「皆、いくつか持っていこう。」
赤髪の少年が口を開こうとする前に提案の言葉を発する。
「ここから先は、自分たちの手で生き残るしか無い」
続いて黒髪の少年がそう伝えると、赤髪の少年は……
「…だから、俺たちは、使ったこと無いんだよ」
「わかってる、だけど、ナイフなら刺す、切る、柄で殴るの最低3つの選択肢がある。
少しでも、相手を怯ませて、逃げる時間を稼ぐんだ」
そう語る彼を、他の子たちも見てくる。
「お前、やけに詳しいな?」
「親が鍛冶師で、使い方を教え込まれただけだよ。」
「鍛冶師……なのに?」
代表したように、赤紫の髪の少女が聞いてきた。
「使い方が分からないモノを造るのが嫌いな人間なんだ」
(それに、使い方が
遠い目をしながらそう告げる。
「なら、後で使い方を教えてね」
話題を変えるように、茶髪の少女がお願いしてきた。
黒髪の少年は頷きながら「わかる範囲でならな」と言った。
子供達は、それぞれ黙って短剣と弓や槍、盾等を持って再び出口を目指した。
少年(大分時間をかけすぎたな、後どれ位余裕が在るんだ?
外に出たら、入り口を崩して時間をもう少し稼がないとな。)
思案しながら、出入口付近まで近着いた頃
「おい、ガキ共が居ないぞ」
(((((気づかれた!)))))
「おい、どうするんだよ?」
「また……捕まるの……嫌だよ」
「お家に帰りたいよ」
年下の三人が、焦り、震え、泣き騒いだ。
「仕方ない、強硬突破するぞ」
冷静に一人の少女は頷き。
「どうするの?」
「俺が先行して切り開くから、警戒しながら後に続いてきてくれ」
そう言うなり、黒髪の少年は走り出した。
「ギャ……」
「グフ……」
「今だ…」
後ろを振り向いた黒髪の少年の瞳に映ったのは、一人の少女の後ろに迫る山賊の姿。
「急げ!!!」
言うか早いか、少年は弓に矢を添えて、射ち出した。
「ガハ……」
その隙に少年少女達は、一目散に出口から逃げ出す事に成功して月が照らす森の中を無我夢中に走り続けるのであった。
第一章 始まりの物語(完)
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