君と歩む人生
十年後の未来 そしてその先
小鳥が囀っていた。
少し開けた窓から柔らかい風が入ってきて朝日が部屋にさす。
少し身じろぎをすると黒水晶のように綺麗な瞳が二つ、こちらを見ていた。
「あっ起きてしまいましたか……」
「おはよう。ゆう」
朝の挨拶をしてからゆうの事を抱きしめる。
「おはようございます。りゅうさん」
いつものように起きたらゆうの頭を一撫でするのが俺の日課だ。
「ふふっ。気持ち良いです……」
ほんっとに可愛いな。うちの嫁は。
「今日は早く起きるか」
「そうですね。だって今日は――」
――結婚一周年の日だから。
§
「いらっしゃいゆっちゃん。鏡花さん」
昼頃、結城と鏡花が家に来た。
二人共ちょっと大人っぽくなっただけで全く変わっていない。
変わったことといえばこの二人に子どもが出来たことくらいだろう。
「えっと……名前はなんだっけ?」
「結花だ」
そうだ、思い出した。二人の名前からとったらしい。
花を結ぶ。
小さい蕾がいつか鮮やかに咲くことを願ってつけた、と結城は言っていた。
「結城様と私の子供……特別に触らせてあげましょう……」
相変わらず鏡花はヤバい感じだが最近はマイルドになった。
なんでだろ、子どもが出来たからかな。
「ありがとうございます。ふふっ可愛い」
結花ちゃんはまだ生後四ヶ月なのだが手に指を近づけると把握反射でぎゅっと握るのが可愛い、というか愛おしいという感情の方が正しいだろう。
「立ち話もあれだから入って」
「ありがとな」
結城は最近シス活を止めているらしい。
ていうかシス活って初めて知ったんだけど。なにそれ。
話を戻そう。
結城も働いているが鏡花さんにほぼヒモのようになっている。なんか株とか投資とかで儲けまくっているらしい。ぐう有能まじ。
「そっちは最近どうだ?」
「俺か? うーん銀行の外回りが大変だな」
俺は今銀行に勤めている。将来AIに仕事が盗られるなんて言われているけどやってみたかったのだ。それに給料も高いし……。
「あと最近はゆうが可愛くて困る」
「へっ」
「けっ惚気かよ」
「ゆっちゃんも何気に手、繋いでるじゃん。ゆっちゃんこそどうなの?」
「俺は……ちょっと耳かせ」
「分かった」
ゆうと鏡花さんはちょっと遠いところで話をしているから聞かれることは無いだろう。
「最近な腰が痛くて」
「腰痛か。急に年取ったな」
「違うんだよ。鏡花とずっと
「惚気じゃん。それにお前らやっぱ変態だな」
「変態じゃねぇよ。純情な夫婦だろ」
「どこがだ」
「りゅうさん何話してるの?」
「結城様……何浮気してるんですか?」
ゆうの純粋無垢な笑みと鏡花さんのどす黒い笑みが俺たちに向けられる。
これが対比か、学生時代に知っておきたかった。
「何でも無いよ」
「男同士の話ってやつだよ。浮気なんかじゃねぇよ」
「そう……」
ハイライトの無い目というのは本当に怖い。
ゆうと喧嘩したことはないが怒らせるとこうなりそうなので気をつけよう。
「そういえばゆっちゃんの方はもう五年か」
「そうだな」
結城は大学進学とともに結婚しやがった。
俺たちはゆうが高校卒業したときにプロポーズ、ゆうの大学卒業を待って結婚した。
「早かったな」
「そうだね」
俺たちが三年生になったら全くゆうに構えなくなって寂しかったな。
大学だってあっという間に過ぎてしまった。
社会人になった今も毎日が早い。
でも楽しくて、愛おしくて。
ゆうたちを守っていこうと思ったんだ。
「遅くなったな。優香妊娠おめでとう」
「ありがとう。お兄ちゃん」
遠くで鳩が俺たちを祝福するように鳴いていた。
この平和な日々がいつまでも続きますように。
「ゆっちゃん。鏡花さん。ありがとう」
幸せそうにはにかむゆうを見て思う。
――今日も俺の嫁が可愛い、と。
fin.
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