私にはりゅうさんがいる
「綺麗でしたね」
「ああ。なんか音の迫力がすごかったな」
帰りの電車。俺たちは肩を寄せ合って座っていた。
バイオリニスト、佐藤コウセイの演奏は凄まじかった。
弓が弦に触れた瞬間その曲の世界が可視できるようになり、体ごと演奏に持ってかれるようだった。途中『仁和シグレ』という知らない作曲家が出てきたがスマホで調べても出てこなかった。
音楽をやっている訳ではない俺は月並みな感想しか言えないがすごかったとだけ言っておこう。
横を見るとうつらうつらとしているゆう。
それを無言で抱き寄せる。
「まだ駅付かないから寝てていいよ」
「ん……はい」
数秒と待たずに静かに寝息をたてて眠るゆう。
しかしゆうの顔が苦しげに歪む。呼吸が荒くなってきて額に汗をかいていた。
「……ごめんなさい」
「大丈夫。俺がいる」
なんなら結城も。少しだけ強く抱きしめるとすぐに穏やかな呼吸に戻った。
もう二度とあんな目にあわせない。俺はそう思った。
§
私は暗い、暗い先の見えない所にいました。
周りを見渡しても墨汁で塗られたような景色が広がるだけ。
遠くから声が聞こえてきました。
「ねえあの子
「えぇまじーあのネクラチャンがー? ウケるんだけどぉ」
違う。そんなことしてない。
「うんそうなの。後藤さんに……ううっ」
「もー美優カワイそー」
「それでねみんなちょっと手伝ってほしいことがあるの」
「美優のお願いならなんでも聞くよ」
「そーそーなんでも言って」
それは気持ちの悪い猫なで声でした。
景色が変わりました。
私はトイレで蹲っていました。体中が冷たい。体を見てみると制服がボロボロに破かれていました。
前髪が顔にはりついて顎からポツンポツンと水が滴り落ちていました。
「ねぇネクラチャンー今どんな気持ちぃ?」
「さっさと認めちゃいなよ楽になるからさぁ」
私は涙を流すことしかできませんでした。
また景色が変わりました。そこは放課後の教室でした。
もう私は何も感じていませんでした。嫌なことも怖いことも。辛うじてりゅうさんやお兄ちゃんがいたから私は生きていられたのかもしれません。
目の前には人がいました。ハサミを持った人が。
「ねえネクラチャン。その髪鬱陶しいんじゃなぁい?」
「そーそー今私たちが切ってあげるからねー」
乱暴に髪を掴まれました。こんな事をされても痛いな、としか感じない私はもう駄目なのかもしれません。
「お前ら何してんだっ!」
教室のドアが勢いよく開かれます。
「お兄ちゃん。瑠斗さん……」
そこに居たのは私の兄と最愛の人。そして見つかりたくない人。
いつも守ってくれる。でもその度に謝るから私は罪悪感に押しつぶされそうでした。そして大事なことに気がつけなかった。
「ごめんなさい」
「大丈夫。俺がいる」
空からりゅうさんの声が聞こえてきました。
そうだ。何時まで経ってもこのままじゃ駄目です。私には守ってくれる人がいる。
「私は! そんなことしてないっ! あなた達の勝手な妄想で語らないで! それに私にはりゅうさんがいる!」
そう言った瞬間暗い世界が弾け飛んで風が吹き抜けました。
白い光が私の網膜を刺激して思わず目を瞑りました。
次に目を開けた時目の前にはりゅうさんがいました。
「ゆう。着いたよ」
「はいりゅうさん」
りゅうさんと手を繋いで帰路につきます。
「りゅうさん」
「どうした?」
背伸びをしてりゅうさんの耳元で囁きます。
「大好きです」
「俺も大好きだよ」
――第二章あとがき――
こんな展開で良かったのかな? と思っている真冬です。
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