幼馴染の妹とデートしよう
田舎って辛いね
ガタンゴトン。
窓から見える景色が木で覆われている。外を見ていてもつまらなかった。
でも二人席の隣、つまり俺の隣にいるゆうを見ると目があった。
ゆうは黒のストレートパンツに白のブラウスを着ていた。
唇には薄っすらと口紅も塗ってあっていつもより大人っぽかった。
席につくなり俺の手をにぎにぎし始めたゆうはだらしなく緩んでいた。
「りゅうさん」
「どうした?」
「ふふっなんでも無いです」
先程からずっとこんな感じだ。目があったら名前を呼ばれる。俺としては別にいいのだが、可愛いし。でも他の乗客のことも考えて欲しい。
ほらさっきまでライトノベルを読んでいたおっさんが消えてしまった。
「隣町なんて初めてだな」
「そうですね」
俺の住む町と隣町は電車で四十分くらいかかる距離だ。
「都会の人って羨ましいです」
「そうだな」
都会は高くそびえ立つビルがあって、なんちゃってイオンじゃないショッピングモールがあって、そしてスタバがあって。何なら二階建ての本屋もあるらしい。
すごいな都会。桃源郷だ。
ゆうによると今日はお昼ごはんを食べてからコンサートに行くらしい。
たしか佐藤コウセイという最近出てきたバイオリニストだったはずだ。そのバイオリニストは絶対ピアノ伴奏を付けないことで有名になったらしい。
何故俺がクラシックを好きなのを知っているのか疑問だが嬉しい。
そしてスケジュールがこれだけなのは電車の時間が少ないからだ。
田舎って辛いね。
『次の駅はA駅。A駅でございます。お降りの方は車両前方のドアをお使いください』
「降りましょうか」
「ああ」
ゆうと手を繋いで電車を降りる。先程のおっさんもいた。俺たちを見るなり逃げてった。少し悪いな。
時計を見ると十一時四十二分。お昼ごはんを食べるには良い時間だ。
「どこでお昼ごはん食べる?」
「久しぶりにマックに行きたいんですけど良いですか?」
「良いよ」
マックか、最後に行ったのは一ヶ月前にゆっちゃんと遊んだときくらいだ。
でもそこで事件が起こると俺は思ってもみなかった。
「やっぱりマックは美味しいですね」
そう言ってハンバーガーにかぶりつくゆう。口が小さいのでハンバーガーをついばんでいるようで小動物のようだった。
俺はとっくのとうに食べ終わっていて二人で買ったポテトを少しずつ食べていた。もちろんゆうの分は残して。
「そういえばなんで俺が音楽好きなの知ってたんだ?」
「お兄ちゃんから聞いたんです」
なるほど。俺は昔クラシックが好きだと公言したら馬鹿にされたことがあったからそれからあまり言わないようにしているのだ。
くだらない理由だがな。
少しずつ食べるゆうをぼーっと見る。いつからだろう。幼い頃からずっと仲が良かったがこんなに距離が近づくと思っていなかった。
結城の家に遊びに行ったら必ず俺のそばに来る子。それが今は一緒に遊ぶ好意を持つ人。となったことに一種の感動を俺は覚えた。
だが俺はここで少しの尿意を覚える。流石に食べてる途中に言うのは不快感を伴うかもしれないからゆうが食べ終わるまで待つ。
「ごちそうさまでした」
「ごめんゆう。キジ撃ってくる。ちょっと待ってて」
「わかりました」
§
遠ざかるりゅうさんの背中を見送ります。
頼もしい抱きつきたくなる背中。
いつからでしょう。気づいたときには近くにりゅうさんがいて私はいつも引っ付いていました。中学やこの前まで恥ずかしくてあまり話せませんでしたが、りゅうさんは突然私が来ても受け止めてくれました。
本当に優しい人です。
私はちょっぴり残った飲み物を飲もうとしたときでした。
「あっれー。後藤さんだー」
肩に手を置かれます。
声を聞いた瞬間体が強ばって息ができなくなります。
リフレインするのはあの時の記憶。地獄のような息の出来ない日々。
「久しぶりだねー泥棒猫ちゃん」
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