呼び方、変えませんか?  

「瑠斗さん。呼び方、変えませんか?」

「呼び名? なんで?」

「いえ、なんだか『優香ちゃん』だと距離が遠い感じがして……」


 確かにそうかもしれない。昔からこの呼び方だったから違和感がなかったのだが優香ちゃんは変えたいらしい。


「わかった。どんなのが良い?」

「それで考えたんですが瑠斗さん。愛してるゲームって知ってますか?」

「なんかネットで話題になっていたよな」


 確か交互に「愛してる」と言い、照れたり笑ったりすると負けのゲームだ。

 よく恋人の暇つぶしに使われるという。


「普通に決めるのではつまらないので勝ったほうが呼ばれたい呼び方を言うっていうのはどうでしょう」


 ふむ。これは俺の年上の余裕を見せつけるチャンスなのではないか。

 負けるはずがない、妙な自信を感じていた。


「じゃあそれに付属して勝った方が何か一つ命令できるってのはどうだ?」


 慢心からでた言葉。これが俺の首をしめることとなるとは思いもしなかった。


「それでは瑠斗さんから始めてください」

「わかった」


  さて、何から言おうか。


「優香ちゃん、君のことを愛してる」

 

  最初は至極真っ当に攻めてみよう。 当然彼女はまだ反応を示さないはず……あれ? ちょっと耳が赤くなったような気がする。


「もう一回です」

「君の仕草が好きだ。愛してる」


 次は頭を撫でながら言ってみる。 最初は驚いたように目を見開いたがすぐに真顔に戻った。


「もう一回です」

「いつも頑張ってる君が好きだ。負けず嫌いなところも好きだ。実は甘えん坊なところも好きだ。だから優香のことを愛してる」

「……はふぅ」


 優香ちゃんははいつの間にか俯いて震えていた。

 恐れとかではなく羞恥の震え。 最後にちゃん抜きで言ったのが良かったのだろうか。


「次は優香ちゃんの番だよ」

「……はい」


 顔は真っ赤に染まっていた。


「いきますよ。瑠斗さん愛してます」


  一番最初は普通に言うだけだった。このくらいではなんとも無い。


「もう一回」

「瑠斗さん。あなたの優しいところを愛してます」


 俺は優しいらしい。そんなこと無いと思うんだけど。

 でも若干の羞恥心を覚えて優香ちゃんがにじり寄っているのに気付くことができなかった。


「もう一回」

「あなたのかっこいいところが好きです。愛してます」


 耳元で囁かれる。その時ぞわりとした快感が俺を襲った。まるで甘美な蜜を吸ったときのように頭がくらくらした。


「も、もう一回」

「ふふっ耳が弱いんですね。私はずっと瑠斗さんに助けられてきました。。優しくてかっこよくて、私と遊んでくれて。あんな兄とも仲良くしてくれて。私はあなたの全てを愛してます」


 背中に手が回される。俺の胸板に柔らかい感触。そして追い打ちをかけるような柔らかい吐息。

  艶めかしく見上げる優香ちゃんはしてやったり、という表情をしていた。


「優香ちゃん……」

「はい」

「降参です……」

「やりました! それでは瑠斗さん。これからは『ゆう』って読んでください」 「わかった」

「あと命令の方ですが私と今度デートしてください。詳細は後でLINEに送るでいいですか?」

「ああ」


 デート。でぇと。既にこれもデートなのか? おうちデートみたいな。 断る理由もない。それに行きたい。


「でも優香……ゆうもさっき照れてなかった?」

「あっあれはちょっと暑かっただけです! 決して照れたりなんて……うぅ」


 俺が頭を撫でると身を委ねてくるゆう。耳が赤くなっているからやっぱり恥ずかしいようだ。


「俺の呼び方もゆうが決めていいよ」


 これは単純に思いつかないからである。結城からはりょっちと呼ばれているがそれ以外呼ばれたことがないし。


「良いんですか!」

「ああ」


 嬉々とした表情を浮かべるゆう。それはさながら夏に咲くひまわりのようで可愛かった。


「じゃあ『りゅうさん』って呼んでいいですか?」

「良いぞ」

「やった、前からこう呼びたかったんです」


 目尻を下げ、はにかむゆう。それに俺は心を撃ち抜かれてしまった。


「りゅうさん」

「どうした?」

「ふふっなんでも無いです」

「ゆう」

「なんですか?」

「呼んでみただけだよ」

「りゅうさん」

「ゆう」

「りゅうさん」

「ふふっ」

「ははっ」


 恋人みたいな会話がおかしくて笑ってしまった。ゆうも同じようだ。


「デート楽しみですね」

「ああ、そうだな」


 俺はゆうが好きだ。それはいつだったか忘れてしまったけど昔から。結城と遊ぶときとかもずっとゆうのことを考えていた。

 でもこの気持ちを伝えてしまったらきっとゆうは俺から離れていってしまう。

 だからそっと傍にいるだけにしておこう。

 目の前で俺の小指をにぎにぎしているゆうを見てそう思った。





§

――一章あとがき――

 ちょっと、というかかなり仲良くなった二人です。

 楽しんでいただけたでしょうか。

 応援コメントや♡、そして

もっと続きが読みたい! ☆☆☆

まぁまぁおもろいんじゃない? ☆☆

おい真冬! もっと頑張れ ☆

 くらいの感じで応援してくれると嬉しいです。


ちょっとここで宣伝を。ラブコメじゃないけど許してください(;・∀・)

異世界召喚されたけど知らん国のために戦うのめんどくさい……ので冒険にでかけます

https://kakuyomu.jp/works/16817330661461497997

です。こちらも読んでくれると真冬と瑠斗と優香がとんで喜びます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る