連絡先を交換しよう+α

「そういえば連絡先交換してないな」

「確かにそうですね」


 俺たちはいたストをやっていた。物件や株を買い、総資産を上げていくシュミレーションゲームだ。


「優香ちゃん。それは意地悪なんじゃないか?」

「いいえ、これも戦略です」


 俺の物件が独占しているエリアの株を買われてしまった。

 株を買うとその分他のプレイヤーの買い物料の何パーセントかが分前として入ってくる。株が多いほどおこぼれを頂戴することができるのだ。


「おりゃっ増資してやる!」

「ああっ止めてくださいよ。今お金ないんですから!」

「今株買っただろー」


 ぽわあんというBGMとともに成長する物件。買い物料は二万円を超えていた。


「ああもうっ最後の手段です!」


 右腕に柔らかい感触。優香ちゃんに抱きつかれたようだ。体温が一気に上がってまともに思考ができなくなる。


「これで瑠斗さんは敵じゃありませんね」


 してやったりといたずらな笑みを浮かべる優香ちゃん。

 だが甘い。

 右腕の拘束から抜け出し優香ちゃんを引き倒す。所謂膝枕の状態だ。


「へっ?」

「これで優香ちゃんは敵じゃないな」


 と自信満々に言ったのは良いものの俺も優香ちゃんの柔らかさと足にかかる息で逆効果だった。

 結局俺たちはコンピューターに負けてしまった。




「はい、連絡先」


 未だ早い動悸はおさまる様子がなかった。

 勢いで膝枕をしてしまったが気持ち悪くなかっただろうか。そのままプレイしていたから嫌なわけではなかったのか。


「ありがとうございます」


 それは彼女も然りのようだった。耳が真っ赤に染まっていた。

 そしてさっきから小さい手を素早く動かし文明の叡智を弄っているがどうしたのだろう。

 よし、と呟いてこちらをスマホで口元を隠して見てくる優香ちゃん。とてもあざとい。

 ピロン、とスマホが鳴る。差出人は優香ちゃんだった。


『今日も楽しかったです! 瑠斗さん!』


 直接言えばいいのに、とも思うが俺もスマホで返す。


『俺も楽しかったよ』


 そう送ると優香ちゃんは目尻を下げて微笑んだ。


「さっきはゴメンな。意地悪だった」


 さっきというのは俺が膝枕をしたときだ。


「ぜんぜん大丈夫です。……むしろ嬉しかったですし」


 俺は難聴系主人公ではないので今の言葉は小声だったがバッチリ聞こえていた。

 これは脈アリと見て良いのか? 少なくとももう少し押せば意外と行けるかもしれない。

 いいやここで年上の余裕だ。落ち着け。よく考えて判断しよう。

 まだだ、あともう少し待てば自ずと答えが出てくるはずだ。


「瑠斗さん?」

「んっああごめん。考え事してた」


 優香ちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。

 俺の顔を見る黒水晶から懐疑の念が送られてきた。


「女のことですか?」


 女のことて。俺には女性の友達は片手で足りるような数しかいない。

 だがこれを聞くということは多少なりとも脈があるのかもしれない。

 でも少し意地悪したくなってきた。


「そうだよ」


 わかりやすく顔を歪める優香ちゃん。


「嘘……ですよね」

「でも一番身近にいるひとだよ」

「まさか紗友里さんを……?」


 紗友里さんというのは俺の母だ。


「違うわっ! 近親交配したくないわ」

「じゃあ誰を……あっ」


 答えに至ったのか硬直する優香ちゃん。その後に湯気が出そうなほど顔を赤らめた。


「はふぅ……」

「可愛いね優香ちゃん」

「……」

「優香ちゃん?」

「あっすいません。ちょっとぼーっとしてました」


 これはなんだかいじり甲斐がある。

 でももう時間だ。結城に怒られるのも嫌だしな。


「優香ちゃん。もうそろそろ時間だよ」

「そうですね。今日もありがとうございました」

「明日も来るか?」

「はい」


 それならあれを渡して良いかもしれない。


「優香ちゃん。ちょっと待ってて」


 俺はリビングにある棚から合鍵を引っ張り出す。

 これは俺に渡された合鍵なので勝手にあげてもいいだろう。幼馴染だし。


「これは合鍵ですか?」

「ああ、これでいつでも家に来れるだろ。それに俺がいないときもあるかもしれないし」

「ふふっ、ありがとうございます」


 両手で合鍵を包む優香ちゃんは祈りを捧げる聖女のようで、尊かった。





一応次で一旦区切りです。

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