シスコン幼馴染に絞められそうです

「りょっち。俺はお前のこと信じてたよ」


 昼休み、俺は学校の屋上に来ていた。


「それなのによぉ! いつの間に優香に手ぇ出してたんだよぉ! お前!」


 目の前で叫ぶシスコン筋肉ダルマはほおっておこう。


「あのくりっとした愛らしい瞳! 平均身長より少し小さい可愛らしい体躯! 整った穢れなき顔! そして控えめなおっぱい! それを汚すってんのかお前はぁ!」

「黙れシスコン野郎」

「俺はシスコンじゃねぇっ!」


 たいていシスコンなやつが違うっていうんだよ。犯罪者が俺じゃないって言うようなものだ。それに妹のおっぱいを見ているなんて、キモいな。


「なぁりょっち。本当のことを教えてくれ。昨日優香はりょっちの家じゃなくて友達の家に行ったんだよなぁ! そうだろ!?」

「すまんなゆっちゃん、昨日は優香ちゃんとずっと将棋をしていた」


 途端、結城が崩れ落ちる。顔の前で手を組み、天に拝むポーズをしていた。


「ジーザス。おお神よ。神は私のことをお見捨てになったのか……!」

「とりあえず弁当食えよ。優香ちゃんが作ってくれてんだろ?」

「そうだな。りょっちよ。我がマイシスターの愛の籠もった弁当を食べようじゃないか!」


 結城が勢いよく蓋を開ける。色とりどりのおかずが待っている、訳ではなく。


「日の丸弁当?」

「そうだな! 昨日喧嘩したからな!」

「なんでだ?」

「それは……」

「お兄ちゃんうるさい。廊下まで聞こえてる。喧嘩した理由は言わなくて良い」


 優香ちゃんが来た。その顔は鬼気迫る笑みを浮かべていた。


「おうマイシスター来てくれたんだね!」


 結城が筋肉質な腕を広げて優香ちゃんに抱きつこうとする。


「近寄らないでください。私は瑠斗さんに用があるんです」


 またも崩れ落ちる結城。その周りには黒い瘴気が渦巻いているようだった。


「瑠斗さん。今日も遊びに行っていいですか?」


 先程とは一転、穏やかな声色になっていた。


「昨日ほど遊べなくていいなら良いぞ」

「わかりました」


 優香ちゃんはまた俺の手を握ってから教室に戻っていった。


「あ……あぁ優香がりょっちの手を……」

「ほらゆっちゃん。早く弁当食べな。五限目始まっちゃうぞ」

「ううっ白米がうめぇなぁ」


 結城は見えない涙を流しながら日の丸弁当を食べていた。


「今日はうちの愚兄がお騒がせしました」


 家に来るなりぺこりと謝る優香ちゃん。


「ゆっちゃんといると楽しいから大丈夫だよ」


 うるさいシスコン野郎だけど結城といる時間は楽しかった。だから今でも幼馴染と公言できるのだが。


「今日は何をするんだ?」

「今日はですねこれをしたいです」

「トランプか」


 結城とよくスピードとか豚のしっぽをやったな。


「そして今日は罰ゲームもやりませんか?」


 罰ゲームか。まあ変なのは要求されないだろう。


「良いぞ」


 そしてこの甘い考えが、罰ゲームの内容を聞かなかったことが仇となった。



「私の勝ちですね」


 俺はあっけなく負けた。ルールが豚のしっぽだったのがいけないんだ。優香ちゃんの綺麗な手を叩くなど俺にはできない。


「罰ゲーム、受けてもらいます」

「ああ、どんとこい」

「なんでも良いんですね?」

「良識の範囲内ならな」


 随分ともったいぶる優香ちゃん。俺はそれに嫌な予感を覚える。


「瑠斗さん。頭撫でてください」


 頭を撫でる。俺が?


「逃げないでくださいよ。罰ゲームですから」


 優香ちゃんの口が三日月の形になって、俺に近づく。俺にはそれがひどく蠱惑的に見えた。


「わかったよ」


 遂に陥落した俺は右手を優香ちゃんの頭に置いてゆっくりと動かす。


「んっ」


 途中悩ましい声を上げるから俺の理性は薄氷うすらひの上に立っていた。


「もうそろそろ良いか?」

「もうちょっとだけ……」


 柔くとろけた優香ちゃんの声が俺の耳朶を震わせる。

 その声に俺の心は揺れていた。

 この子が好きなんじゃないかと叫んでいた。

 優香ちゃんが俺に体を預けてくる。

 ――ごめんゆっちゃん。手出さないとか無理だわ。



「長居しちゃってすいませんでした」


 俺が撫でるのを止めたときにはすっかり日が暮れてしまっていた。


「全然大丈夫だよ。それよりもう暗いし送ってくよ」

「ありがとうございます」


 暗い夜道を二人で歩く。

 途中で優香ちゃんが立ち止まった。


「瑠斗さん。もういっこ良いですか?」

「ん?」

「手繋いでも良いですか?」


 もう優香ちゃんのお願いは全て聞こうと先程思った。この幼馴染にはかなわないなと思ったからだ。かといって年上の余裕を忘れるわけにはいかない。いい塩梅が必要だ。


「いいよ」


 すっと右手を差し出す。


「やったぁ……えへへ」


 小さい、でも暖かい手。それを優しく握る。

 そしてまた俺たちは歩き出した。


「明日も遊びに行っていいですか?」

「もちろん」


 その後結城の悲鳴が木霊したのはまた別の話。






関係ないですが作者は手フェチです。綺麗な手を傷つけるやつは人じゃありません。

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