第3話 英雄の話
英雄がいた。その男は強かった。その力で数々の功績と武勲をあげた。
英雄は人々から憧れと尊敬を集めていた。次の国王には彼が相応しいと言う声さえあった。
しかし、その英雄は王家の血を引いていなかった。それでも人々は彼こそ次の王に相応しいと声をあげていた。
そんなある時、王国の首都である王都に凶暴な魔物が現れた。その被害は大きく、町は破壊され多くの国民が命を落とした。
王都を襲った魔物を退治したのもその英雄と仲間たちだった。
人々は英雄とその仲間たちを称え、英雄の人気はさらに高まった。
しかし、その評価は一変する。
疑問を持つ者たちが現れた。厳重に警備され、凶暴な魔物など王都の周囲にはいないはずなのに、町を襲った魔物はどこから来たのか。
疑問は噂を呼び、噂は人々の中に疑いの心を生み出した。
そんなときひとりの証言者が現れた。あの魔物は英雄が呼び寄せたのだ、と言う者が現れたのだ。
そう証言者は英雄の仲間のひとりだった。その男は英雄に頼まれ自分がやったのだと証言した。
証言者が現れ、その証言を裏付ける証拠も出てきた。
もしかしたらあれもこれもすべて英雄の自作自演だったのではないか。と、人々は疑い始めた。
すべては自分の評価を上げるため、いずれは王になるために英雄が仕組んだことではないのか。
英雄の仲間の男は言った。耐えられなかったと、あの男に命令され罪を犯し、それを隠し続けることが辛かったと。
すべては英雄が仕組んだことなのだと、そう言った。
英雄は英雄ではなくなった。今まで築き上げた信用が一気に崩れ去り、英雄は王の座を奪い取ろうとする大罪人へと堕ちていった。
英雄は捕らえられた。そして、処刑された。
だが、英雄は認めなかった。自分が処刑されるその瞬間まで自分の罪を認めなかった。違う、違うと言い続けた。
自分はやっていない、ハメられたんだとそう言い続けた。
しかし証拠がなかった。罠にハメられたのだという証拠はどこにもなかった。反対に英雄が国民の信頼を獲得するためにワザと事件を起こしていた、という証拠は次々と出てきた。
濡れ衣だ、と言い続けた。けれど、誰もその言葉に耳を貸そうとはしなかった。
信じてくれ、と言い続けた。けれど、誰もその言葉を信じようとはしなかった。
英雄は最後まで自分の身の潔白を主張し続けた。けれど、誰も英雄の味方をする者はいなかった。
英雄は絶望した。絶望し、怒り、憎んだ。
そして、呪った。死ぬ間際にすべてを呪った。
呪いあれ。すべてに呪いあれ。
この国に、民に、王家の血を継ぐ者たちに、すべてに呪いあれ。
呪いあれ、そう言って英雄は死んだ。首をはねられ、その首は晒し物にされた。
それからだった。
英雄が処刑されてからしばらくして雨が降り始めた。その雨は何日も、何週間も、何か月も降り続けた。その雨により川が溢れ、大地はぬかるみ、山はが崩れ、畑の作物はことごとく腐っていった。
雨は病をもたらした。家屋や家具にはカビが浮き、人々は病に侵され次々と倒れていった。
空も大地も水も、空気さえもが腐っていった。井戸の水には毒が混じり、原因不明の病により人の体も腐れ落ちていった。
国王は困り果てた。これは呪いなのだと、そう考えた。
英雄の呪い。英雄の怒りと憎しみがこの国を呪っているのだと。
国王はその呪いを解くために様々な手を尽くした。しかし、呪いは一向に解かれることはなく、むしろ日に日に悪くなるばかりだった。
そして、とうとう国王までもが病に倒れた。
そんなとき、一人の魔法使いが現れた。その魔法使いは神境からやってきた魔法使いだった。
国王はその魔法使いにこの呪いを解いてくれと頼んだ。しかし、魔法使いはそれを拒んだ。それだけの罪を犯したのだと、そう言った。
その代わり呪いを封じることはできると魔法使いは言った。その言葉を信じた国王は魔法使いに呪いを封じてくれるように頼みこんだ。
そして、魔法使いは見事に呪いを封じ込めた。だが、その代償として呪いを封じ込め続けるための生贄を捧げるようにと王に告げた。
王国に平和が訪れた。その代償として忌み子が生まれた。
王国にかけられた呪いを封じ込めるための犠牲。『
その犠牲の上に王国の平和は成り立っている。
今日も、王国は平和である。
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