第49話 アリアさんはイチャイチャしたい!

 いつもの修行の一環として、今日も炎魔法の修行を数十分ほど行っていると、アリアさんが言った。


「うん、炎魔法の修行はこのくらいで良いんじゃないかな……もうあとちょっとでお昼だし、そろそろ宿舎────」

「じゃあ、次は炎魔法とは反対の水魔法の修行ですよね」

「え?う……うん」


 アリアさんはどこか歯切れが悪く、常にそわそわしている様子だったが、物理的な何かがあるとか悩みがあるとかっていう雰囲気でもなかったため、今は自分の修行に集中することにした。

 そして、それから数十分、炎魔法と同じように、水魔法の修行を続けていると、アリアさんがさっきの水魔法の時と同じように……ではなく、さっきよりも少し早口で言った。


「うん、水魔法の修行はこのくらいで良いんじゃないかな?もうお昼になったし、そろそろ宿舎────」

「次は水魔法の関連で、氷魔法の修行ですよね」

「……う、うん」


 アリアさんはまたもどこか歯切れが悪くそわそわしている様子だったが、俺は特に気にしないことにして修行を続けた。

 そしてまたも数十分後。

 アリアさんは、早口で勢いがすごい口調で言った。


「もう氷魔法は十分じゃないかな!?雷魔法とか風魔法の修行をするにしても、先にお昼ご飯とか食べてエネルギー補給してからの方が良いと思うよ?うん!その方が絶対修行の効果もすぐに出るよ!」

「そんな勢いで言わなくても、もう昼なので元々これで休むつもりでしたよ……?」

「え?そ、そうなの?良かったぁ……アディンくんいつまでも修行しそうな雰囲気あるんだもん」


 安心した様子でそう言うと、アリアさんはようやく言えると言った感じで言った。


「じゃあ!早く宿舎帰ろっか!!ね!!」

「は、はい」


 そんなに強調されなくても帰ります、と思いながらも、俺はアリアさんと一緒に宿舎に帰った。

 宿舎に帰ると、アリアさんは荷物を置いて言った。


「やっとアディンくんと二人きりの空間だ〜!」

「さっきのギルド訓練場でも俺たちだけでしたよ……?」

「そうだけど、あそこはいつ誰が来るかわからないから、やっぱり宿舎でアディンくんと二人になるのとは全然違うの!は〜、私ってばダメな師匠だよね〜、アディンくんが修行頑張ってるのに、頭の中では早く宿舎に帰ってアディンくんと二人でイチャイチャしたいって考えてるんだもん────でも!」


 アリアさんは俺にダイブするような勢いで俺の方に飛び込んでくると、俺のことを抱きしめてきて言った。


「私はちゃんと師匠としてアディンくんの訓練を妨害したりすることなく耐え切った……!だからこのぐらいのご褒美あっても良いと思わない?良いよね!?」

「俺のことを抱きしめることがご褒美になるんですか……?」

「うん!私が一番幸せを感じる時間……」

「それなら、好きなだけどうぞ」

「好きなだけ?」

「……え?」


 十分後。


「アディンくん〜!」


 二十分後。


「いつまでも抱きしめられるね〜」


 三十分後。


「アディンくんのこと抱きしめてると本当に心が温まるよ……」


 そして……一時間後。

 俺は、この一時間の間、ずっとアリアさんに抱きしめられ続け────


「好きなだけって言ったのは俺が悪かったですから、そろそろ離れてください!お昼ご飯食べて早く修行したいので!」


 そろそろ修行がしたくなってきたので俺がそう言うと、アリアさんは頬を膨らませて大きな声で言った。


「いっつも修行修行って、私と修行どっちが大事なの!?」


 ……あの白髪の少女との約束のために強くなりたい、というのは今でも変わっていないが────今は。


「アリアさんのことを守れるぐらい強くなるために、俺は修行がしたいんです……言い換えるなら、アリアさんのために修行がしたいので、アリアさんの方が大事です」

「っ……!私のため、って言ってくれるなら、私も……アディンくんにはずっと元気で居てほしいから、アディンくんがどんなモンスターと戦っても大丈夫なように、修行つけてあげないとね」

「はい!ありがとうございます!」


 アリアさんは照れたようにそう言うと、そっと俺のことを抱きしめるのをやめた。

 そして、その直後に一緒にお昼ご飯を食べたが、アリアさんはずっと頬を赤く染めたままどこか上の空の状態だった……が、修行に入ると、アリアさんは俺のことを気遣いながらもとても優しく、真剣に修行をつけてくれた。

 アリアさんは、本当に優しい人だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る