第50話 アリアさんと約束しよう!

「何してるの?」


 自然の中を探検していると、湖に向けて炎魔法を放っている白髪の少女を見つけた。

 どうしてそんなことをしているのか尋ねてみると、その白髪の少女は元気に答えてくれた。


「ん……?何って、修行だよ修行!」

「しゅぎょう……?」

「そう!強くなるための訓練ってこと!」

「訓練……」

「君もやる?ずっと一人で修行してて、一緒に修行してくれる人欲しかったんだよね」

「修行って楽しい?」

「楽しいかはわからないけど……いつか大切な人ができた時に、その人のことを守れるようになると思うよ」

「かっこいい!やる!」

「素直で可愛いね、名前は?」

「アディン=アルマークス!」

「アディンくんね……私の名前はア────」


 その白髪の少女が名前を言う前に、世界はベッドの上から見える景色となったが、俺は体を起き上がらせて呟いていた。


「アリアさん!」

「私なら居るけどどうしたの?何か怖い夢でも見た?」


 本を読んでいたらしいアリアさんが、本を閉じて心配した様子で俺の居るベッドまで来ると、俺のことを後ろから優しく抱きしめた。

 今のは……白髪の少女との、昔の夢だ。


「怖い夢ってわけじゃないですちょっと昔の夢を見て……ちょっと昔話になるんですけど良いですか?」

「うん、良いよ」


 アリアさんが優しい声でそう言ってくれたため、俺は話し始めることにした。


「俺、昔に白髪の少女と一緒に強くなって冒険者として一緒に戦おうって約束をしたことがあるんです」

「……うん」

「その少女とは、結局一年もしない間に相手の少女が居なくなっちゃって、離れ離れになっちゃったんですけど、今その少女との昔の夢を見て……」

「……それって、前に話してたアディンくんが恋愛感情を抱いたことのある魔法の上手な女の子の話?」

「そうです」


 俺がそう答えると、アリアさんが俺のことを抱きしめる力を少し強めて言った。


「一年もしない間に勝手に居なくなっちゃったその少女のことどう思ってるの?」

「感謝してます、俺に夢をくれた人ですから」

「っ……!」


 アリアさんはさらに俺のことを強く抱きしめた。


「アリアさん……?」


 そんなアリアさんのことを心配してアリアさんの名前を呼んだ俺だったが、アリアさんは俺のことを抱きしめたまま言った。


「アディンくん、明日……一緒にクエスト行こっか」

「……え!?クエスト、ですか!?」


 アリアさんの考えが変わったというのは聞いていたが、それにしたってあのアリアさんの口からクエストという言葉が出ると、俺は思わず驚いてしまった。

 だが、アリアさんは落ち着いた様子で言う。


「うん、クエスト……明日のクエストをクリアできたら、アディンくんに二つ伝えたいことがあるの」

「俺に……伝えたいこと?二つ?」

「そう、伝えたい……でも────」


 アリアさんは俺の正面に回ると、俺のことを抱きしめて言う。


「私のこと、嫌いにならないでね……もしまたアディンくんと離れ離れになったりしたら、私……」


 そのアリアさんの声はとても震えていたが、俺はそんなアリアさんに今心から思っていることを伝える。


「俺がアリアさんのこと嫌うはずないじゃないですか……明日は俺にとって初めてのクエストを一緒にクリアして、最高の日にしましょう」

「うん……約束だよ」

「はい」


 その後、アリアさんと、互いに抱きしめあってしばらく時間を共にした。

 明日で俺たちの何かが大きく変わるのかもしれないし、それがどう変わるのかは俺にはわからない。

 それでも……俺は絶対にアリアさんのことを手放したりしないし、俺はアリアさんのことをこれからも支えていきたい……そのことだけは、確信を持って言える。

 明日は初めてのクエストをクリアして、アリアさんが俺に伝えたいことというものも二つとも聞き届けて────最高の一日にする。

 そう固く決意して、俺は明日を迎えることとなった。

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