第47話 エテネーラさんは惚れ込んでいる!

「はぁ、はぁ、はぁ……」


 アリアさんとの修行で魔力を使い切った俺は、体中から力が抜けてしまい思わず倒れそうになってしまったが、そんな俺のことをアリアさんは優しい笑顔で受け止めて言った。


「お疲れ様、アディンくん……今日はもう休もっか」


 そう言うと、アリアさんはそのまま草原の上で俺のことを膝枕してくれた……そして、膝枕をしながら俺の胴体に手を置く形で軽く俺のことを抱きしめている。

 ……前にもアリアさんには膝枕をされたことはあったが、最近は俺に膝枕をしているときのアリアさんの様子がかなり違っていた。

 前は純粋に俺のことを癒すのが目的といった感じだったが、今はそこに加えて、この行為自体にもっと別の温かい感情が含まれているような気がする。

 少しの間その感覚に身を委ねていると、俺はふと思い出したことがあったので、そのことを口にしてみた。


「アリアさん、この前のモンスターの大群って、どうして街に侵入しようとしてたんでしょうか」

「あぁ……きっと、最近姿を見せてないあのサキュバスがそろそろ解決して戻ってくる頃じゃない?私としては戻ってこなくても良いんだけど」

「……え?エテネーラさん?」


 モンスターの大群とエテネーラさんに、一体何の関係が────


「アディン〜!」


 噂をすれば、とはよく言ったもので、エテネーラさんの話をし始めた直後に、エテネーラさんはその黒い羽で飛びながら俺たちのところまで真っ直ぐに来た────が、アリアさんは冷めた目つきでそれを見ると、エテネーラさんが俺たちのところ……正確には俺のところまで来て、俺のことをその勢いで抱きしめようとした直前、俺とエテネーラさんの間に風魔法を放って、エテネーラさんの向きを変えた。

 そのままどこかに行ってしまいそうな勢いのエテネーラさんだったが、すぐに俺たちの前まで戻ってきて言う。


「ちょっとアリア=フェルステ!何するの!?」

「アディンくんのこと抱きしめようとしてたんだから当然妨害するに決まってるでしょ、それより……話はついたの?」

「……流石、わかってるんだ、うん、つけてきたよ」


 話……?

 二人は共通認識の何かで話を進めているようだが、俺には全くその内容がわからなかったため、思わず口を挟んでしまった。


「あの……二人が何を話してるか俺にはわからないんですけど、話はついたって、何の話ですか?」

「うん、何も説明してないのにわかるアリア=フェルステが異常なだけだから気にしないで!ほら、この前のモンスターの大群が侵入しようとしてきたって話、あれ、私のせいだったんだよね」

「え……?」


 エテネーラさんのせい……?


「正確には、私が直接的に何かをしたってわけじゃなくて、私があの街に居たから、かな」

「どういう、ことですか?」

「話せば超単純なんだけど、私があの街に居ることを知った魔王軍の人たちが、私が人間に捕らえられたって勘違いしてたらしくて、私のことを取り返すためにってことで来てたみたい」

「なるほど……」


 確かに魔王軍幹部であるエテネーラさんが全然帰ってこなくて、それが人の住む街に居るとなれば、捕らえられたと考えるのが自然な考えだ……そうか。


「じゃあ話がついたって言うのは、魔王軍の人と話がついたってことですか?」

「うん、でも、まさか人間のアディンに惚れ込んでるなんて言えるわけなかったから、潜入してるってことにしといたよ」

「……え?」


 その発言に、何故かアリアさんは困惑の意を示した。

 人の街に居る矛盾を埋めるために潜入してるってことにしたって言うのは純粋に良い案だと思うが、アリアさんは何を困惑しているんだろうか。


「惚れ込んでるって何?アディンくんは都合良く魔力をくれる優しい人間だったから利用してるってだけだよね?ていうかそっちの方がまだマシなんだけど」

「魔力をくれる優しいアディンだから、惚れ込んじゃったの」

「……」


 俺は、殺気を漂わせているアリアさんのことをどうにか説得────はできなかったが、アリアさんと一緒に美味しいものを食べに行きたいと言ったらどうにかそれで気を引くことができて、エテネーラさんへの殺意は一度忘れてもらうことができた……とにかく、今後もエテネーラさんと楽しく関われそうで良かった。

 そう強く安心してから、俺はアリアさんと一緒に美味しいものを食べに行った……アリアさんは、今まで以上に俺との距離を縮めて来ていた。

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