第40話 アリアさんは十八歳の少女!

「……アリア、さん?」


 さっきまでスモールオーシャンの中にあるウォーターランドと呼ばれる場所に居たはずのアリアさんが、俺やミレーナさんよりも早く帰っている……でも、アリアさんの風魔法での移動速度を考えれば、俺やミレーナさんが歩いて帰っていたということも考慮すれば、俺たちよりも先に家に帰っているのは特段驚くようなことじゃない。

 そして、当然この宿舎の部屋にアリアさんが居ることに対しても驚きはない、ここは元々Sランク冒険者の人用の宿舎部屋で、俺がここに居られるのもアリアさんのおかげだからだ。

 だが────アリアさんが足を組んで怒った様子で居ること、それだけが俺にはどうしてか全くわからなかった。


「……スモールオーシャンでのウォーターランドで、アリアさんと会うことになるなんて思ってなかったので驚きました、観客席に水が入らないギリギリのところで魔力を調整してたのも本当にすごかったです」


 俺がとりあえず、怒っているアリアさんの雰囲気を解そうとさっき思ったことを、嘘ではなく純粋な気持ちで言ってみたが、アリアさんは足を組んだままその怒った様子を崩さない。


「俺もいつか、アリアさんみたいな魔法の使い手になれるように、もっと修行頑張らないといけないですね」


 ────その言葉によって俺はアリアさんの踏んではいけない何かを踏んでしまったようで、アリアさんは足を組み替えて言った。


「修行頑張らないといけないのに、ミレーナと二人であんなところに出かけてたんだ」

「え?あぁ、えっと、シュテリドネさんの故国に行った時とかはミレーナさんが居なかったので、その話をしたらミレーナさんが俺と出かけたいって言ってくれたので」

「へ〜?それでミレーナと二人でお出かけ?」

「……はい」


 もっと何か理由を付け加えた方が良さそうな雰囲気だったが、そもそも何をどう弁明すれば良いのかがわからないため、俺は素直にそう頷いた。

 すると、アリアさんは落ち着いた声で言った。


「この際だから聞いておきたいんだけど、アディンくんは私とミレーナ、シュテリドネとあのサキュバス、誰のことが一番好きなの?」

「え……!?」


 アリアさんには当然返しきれないほど大きな恩があるし、ミレーナさんも日頃から優しく接してくれてるし、シュテリドネさんは出会ってから間もないけど冒険者としてかっこいい人だし、エテネーラさんはもっと出会ってから間もないけど、互いに互いのためを思って身を呈したりして、時間では測れないほど大切な存在になっている。

 とてもじゃないが、一番なんて選べな────い、と言おうとした時、俺はアリアさんの目を見て、アリアさんが本気でその答えを望んでいるということを直感で感じた。

 ……今は回答を濁してはいけない、そういう直感。

 ……俺は、よく考えて、その答えを口に出した。


「一番とか二番とか、優劣をつけるようなことはしたくないですけど……やっぱり、俺のことを一番近くで支えてくれて、俺の中で一番大きな存在になってくれてるのは、アリアさんだと思います」


 アリアさんのために嘘をついたわけではなく、心の底からそう思ったので俺はそのことを口にすると、アリアさんは立ち上がって俺のことを力強く抱きしめてきた。


「私もだよ、アディンくん……!……ごめんね、最近アディンくんが遠くに行っちゃってるような気がして、もしかしたら本当に私から離れちゃうんじゃないかって、不安だったの……私、アディンくんの師匠なのに、情けないね」

「そんなことないです……師匠としてのアリアさんも、Sランク冒険者としてのアリアさんも素敵だと思いますけど、俺の前でぐらい、たまには十八歳の少女としてのアリアさんで居てください」

「アディンくん……!」


 アリアさんはより強く俺のことを抱きしめてくると、俺の耳元で囁いてきた。


「じゃあアディンくんも、私の前でぐらい、たまには……ううん、私の前でならずっとでも良いけど、十五歳の男の子として私にいっぱい甘えてね」

「十五歳の男の子は普通そんなに甘えないですから!」


 その後、俺とアリアさんは言葉ではいつものようなやり取りをしたが、そこには今までよりもさらに親密になったという確かな実感があった。

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