第32話 エテネーラさんにあげたい!

「……え?」


 大好き……?大好きって、どういう意味での大好きだ……?

 ていうか、今俺あのエテネーラさんに抱きしめられてるのか……!?……それに、エテネーラさんの服はボロボロで、元々薄い感じの服だったから、抱きしめられたりすると柔らかい感触が────じゃない!

 そういえば、最初エテネーラさんのことを見た時にも思わず見惚れそうになってしまったけど、きっとそれがサキュバスの魅力というものなんだろう……だが、とにかくここは紳士的な対応をしよう。


「エテネーラさん、気持ちはもう受け取りましたから、とりあえず、その……離れてください」

「え、どうして?まだこうしてアディンの温もり知りたいのに」

「普通の服とか防具とかを着てくれたら良いんですけど、今のエテネーラさんの格好で抱きしめられると、なんていうか……」

「あぁ……そういうことね」


 エテネーラさんは俺の考えをわかってくれたらしい────と思ったが、その次の瞬間にはエテネーラさんが俺のことをさらに強く抱きしめてきた。


「エテネーラさん……!?え、わかってくれたんじゃないんですか!?」

「アディンのことはちゃんとわかってるよ?私に抱きしめられてることと、私の胸がアディンに当たってるのが気になるんだよね?」

「そこまでわかってくれてるなら離れてくださいよ!」

「さっきアディンが私のこと守ってくれた時、もし次の命があったら、全部をアディンのために使おうって決めたから、離れない……ねぇアディン、あの二人が戦ってる間に、私たちだけで抜け出して、その間にアディンの人間の源くれない?」


 人間の源……それを取れば、確か魔力を取るよりもかなりの間男の人を必要とせずに生きられるって話だったな。

 しかもその方法だと俺はしんどくなったりせず、気持ち良くもなれるらしい……どういうことだろうか。

 でも、デメリットは全くなさそうだし、この場に居てもできることもないだろうから、エテネーラさんの提案を受け入れよう。


「わかりました、じゃあすぐそこに路地裏があるのでそこであげます」

「路地裏……!?最悪私は魔王軍幹部だからバレてもそこまでダメージないけど、もし誰かに見つかったらアディンに迷惑かかっちゃうから、路地裏はダメかな」

「え……?そうなんですか?」

「……そう」


 ……少し考えてみたが、確かにそうだ。

 路地裏とはいえ、仮に人が来たとして、俺がエテネーラさんに人間の源を渡してるところを目撃されたら、俺が魔王軍幹部のことを手助けしていると見られかねない。

 もしエテネーラさんが今すぐにでも魔力や人間の源が必要という状況なら、俺はそんなことを気にせずに絶対にエテネーラさんのことを助けるが、今はそういう状況でもないのに自ら危険なことをするのはやめた方がいい、か。


「わかりました、じゃあどこか二人になれる建物の中とかだと良いですか?」

「うん、ベッド……は無くてもいっか、とにかく二人になれる個室に行こ……そこからは、私が全部教えてあげるから」

「ありがとうございます、じゃあ行きましょうか」


 そう言って歩き出そうとする俺のことを、エテネーラさんが「待って」と言って引き止めた。


「どうかしましたか?」


 俺がエテネーラさんの方に振り返ると、エテネーラさんは言った。


「もしかしたらもう、私以外じゃ満足できなくなるかもしれないけど……アディンは、それでも良い?」

「満足……?」


 エテネーラさんに人間の源をあげたら、エテネーラさん以外にあげることはできない、ということか?

 ……そういうことなら。


「問題ないです、俺が助けたいのはエテネーラさんですから」

「アディン……!」


 そう言って今度こそ歩き出そうとした────その時、俺とエテネーラさんの行方を阻むように、俺たちの目の前に水魔法が飛んできた。


「アディンくん、どこに行く気?」

「アリアさんにはわかってもらえないかもしれませんけど、俺はエテネーラさんのことを助けたいんです……だから、今からエテネーラさんに人間の源を渡しに行きます」

「人間の、源────は、はぁ!?に、人間の源!?」


 さっきまでずっと無機質な雰囲気のアリアさんだったが、今度はいつものアリアさんに戻ったように驚いた様子だった。

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