第30話 アリアさんと戦おう!
衝突した水魔法は、衝突した瞬間に弾けた────それによってわかったことは、本気の戦いと言っても、おそらく本気なのは俺だけだということだ。
何故なら、もしアリアさんが本気なら、アリアさんが片手だけで俺が両手を使っていたとは言っても、俺の水魔法と衝突して弾けたりするわけがなく、俺の水魔法なんて貫いて俺に致命傷を与えることなんて造作もないはずだからだ……つまり、アリアさんは俺には危害を加えたくないと考えている。
本当の本気で勝負をするなら俺に勝ち目なんてないかもしれないが、俺に危害を加えたくないと考えているアリアさんになら────勝てるかもしれない。
俺は手を構えて、アリアさんの方に炎魔法を放つ。
「アリアさん、痛いのが嫌だったら避けてください!」
そう言って俺は再度水魔法をアリアさんに放った……こんな水魔法一つ、アリアさんなら簡単に対処でき────るはずだが、アリアさんはそれを避けることも防ぐこともせず、受けた。
「……」
「え……?」
アリアさんは特に痛くもなんともないといった様子で、手を構えるのをやめると言った。
「アディンくん、私は抵抗せずに、一直線にそっちに行って、その魔王軍幹部のサキュバスだけ倒すから、もしそれが嫌なら私のこと攻撃していいよ」
「無抵抗のアリアさんに、攻撃……?」
「うん」
アリアさんは宣言通りに、ゆっくりと俺とエテネーラさんの方に下降してきた……完全に隙だらけだ、いくらアリアさんでも何も抵抗せずに俺の攻撃を何発、何十発も喰らえば、きっと致命傷になる。
……俺はアリアさんの方に手を向ける。
「……はぁ、はぁ」
アリアさんが抵抗してくれるならここまで精神に負担はなかったと思うが、無抵抗のアリアさんに対して攻撃することなんて……
「もういいよ、アディン」
「……え?」
俺の後ろに居たはずのエテネーラさんが、いつの間にか俺の前に立っていて、そう言った……もう、いい?
「私のこと守ろうとしてくれたのは本当に嬉しかったけど、それでアディンが苦しむんだったら……私が倒された方が何倍もマシ────本当に、最後の最後で、アディンにたくさん大事なものもらっちゃったね」
「ま、待ってください、エテネーラさん、最後なんて────」
「ようやくアディンくんの前に出たね」
そんなアリアさんの声が聞こえたと思ったら、アリアさんはさっきの水魔法の時とは違う、正真正銘本気の雷魔法をエテネーラさんに向けて放った……今のエテネーラさんにはほとんど魔力がない、そんな状態でアリアさんのこんな雷魔法を受けたら……
「エテネーラさん!避けてください!」
雷がエテネーラさんに当たる寸前で、エテネーラさんは笑顔で言った。
「アディン……また生まれ変わることがあったとしたら、今度は敵同士じゃなくて、アディンの味方として、アディンと一緒に────」
その次の瞬間、エテネーラさんの居る場所に、アリアさんの強力な雷魔法が落ちた。
「エテネーラさん!?」
そこにはもう、エテネーラさんの姿は影も形もなく、ただただアリアさんの雷魔法によって穴の空いた石の床があるだけだった。
「そ、そんな……」
確かにエテネーラさんは、魔王軍幹部として今まで色々とよくないことをしてきたのかもしれないが、それも全ては生きるため……少なくとも、今のエテネーラさんはもう、魔王軍幹部として討伐対象にならないといけないような人じゃなかった。
「……アリアさん!どうして俺の話を────」
「シュテリドネ、どういうつもり?」
「え?シュテリドネ、さん……?」
どうして今シュテリドネさんの名前が出るのかと疑問に思った俺だったが、アリアさんの向いている方向を見てみると、ある一つの建物の屋根の上にシュテリドネさん────と、そのシュテリドネさんの横には、屋根の上に座っているエテネーラさんの姿があった。
「エテネーラさん……!」
シュテリドネさんがエテネーラさんのことを助けてくれたんだ……!
俺はエテネーラさんが生きていることに強く安堵感を覚え、思わず膝から崩れ落ちてしまった。
そして、シュテリドネさんは剣を抜きながらアリアさんに対して強く言い放った。
「アリア=フェルステ、やはり君は、アディン=アルマークス君次第で、とても危うい存在になるな……もし君がその矛を納める気がないというのなら、私と真剣勝負をしてもらおう」
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