第29話 エテネーラさんを守ろう!

「ア、アリアさん!?」

「アディンくん!速く離れて!!」


 突然臨戦的な態度になっているアリアさんに驚きながらも、俺はこの状況をまずいと考えた。

 何故なら、俺とエテネーラさんの話した内容を知らないアリアさんにとっては、エテネーラさんは魔王軍幹部というだけだからだ……つまり、討伐対象。

 だが、当然エテネーラさんが討伐されるのを見過ごすことなんて、できるはずもない……とりあえず、アリアさんのことを説得しよう。


「待ってくださいアリアさん!エテネーラさん……この人は────」

「もう忘れちゃったの!?そいつは魔王軍幹部のやつだよ!」

「覚えてますよ!魔王軍幹部だってこともわかってます、でも────」

「そいつの見た目がボロボロだから同情しちゃったの?それは、私が前吹き飛ばしたからだよ!それで吹き飛ばされた先がこの国で、シュテリドネが言ってた強い魔力反応と私が感じ取った一回だけあった強力な魔力反応……それは、私の魔力とそいつが受け身を取るために魔力を全部使い切った時のだよ!だから、シュテリドネの言ってた件もそいつを倒せば解決するの!それでようやくアディンくんと私のセーフティーオーシャンライフが────」


 ……その話を聞いていて、今は何を言ってもアリアさんにはわかってもらえないということがわかった。

 アリアさんが悪いわけじゃない、俺が逆の立場だったとしたら、どうして少し前に街を攻撃しようとしていた魔王軍幹部を庇っているのかと疑問に思うのは当然だし、そこにシュテリドネさんの話も重なれば、一刻も早くエテネーラさんのことを討伐したいと思うのは当然だ。

 ……でも。


「させません」

「……え?」


 俺もアリアさんと同様手に魔力を込めて、いつでも戦えるようにアリアさんの方に向けて身構えた。


「アリアさんがちゃんと話を聞いてくれないなら、俺はこの人……エテネーラさんのことを守ります」

「アディン……」


 後ろに居るエテネーラさんは、小さく俺の名前を呟いた……今エテネーラさんは魔力が使えないから、俺がこの人を守らないといけないんだ。

 俺がそう強く決意していると、アリアさんは右手を上に上げた────かと思えば、その手の平から強い魔力が込められている雷魔法を放った。

 ちょうど真上にあった雲は、その形を無くして青空だけが残る……本当に、とんでもない魔力だ。

 そして、アリアさんは右手を下げると、空中に浮きながら下に居る俺のことを見て、少し苛立ったように言った。


「アディンくん、今のは警告だよ……今すぐそこから退いて」

「どきません」

「……そっか」


 さっきは苛立っていた様子のアリアさんだったが、今度は無表情になっていた……そして、無機質な声で話し始める。


「可哀想なアディンくん、私が居ない間にそのサキュバスに誘惑されて洗脳されちゃったんだね……」

「洗脳……?違います、俺は────」

「でも、洗脳だとしてもタチが悪いよね、アディンくんに自分のことを名前で呼ばせるなんて……私はどんな魔法にでも対処できるから、他の人が炎が苦手とか氷が苦手とか言ってても、私はその意味が全くわからなかった……でも、私の大事なアディンくんを弄ぶって意味で考えたら、私はこういう洗脳系の魔法が嫌いなんだって気づいたよ」

「聞いてくださいアリアさん!俺は洗脳されてるわけじゃ────」

「大丈夫だよアディンくん……すぐ元に戻してあげるからね」


 ダメだ……もう本当に会話ができる状態じゃない。

 アリアさんは俺の方に右手を向けて水魔法を放ってきたため、俺はアリアさんの方に両手を向けて水魔法を放ち────そのお互いの水魔法の衝突を合図として、模擬戦じゃない、正真正銘俺とアリアさんの本気の戦いが始まった。

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