第26話 色白な女性を助けよう!

「はっ!叫んだって、こんな路地裏じゃ誰も助けになんて来ねえよ!」


 いかにもガラの悪い大きな体の男の人が、今にも色白な女性の腕を掴もうとしていたので、俺はその腕を掴んで思いっきりこの男の人を地面に叩きつけた。

 男の人は突然のことに受け身も取れず気を失ってしまったようだが、今回は状況が状況だったし、アリアさんに馬車の前で待っているように言われたから、できるだけ早く解決したかったため仕方ない。


「どこか怪我とかしてないですか?」


 俺は、色白な女性の方に近づいてそう聞いた。

 すると、色白な女性は驚いたような表情になって慌てて何かを言った。


「……っ!?確か、アディン────」

「す、すみません、俺はさっきの人みたいに乱暴しようとしたわけじゃなくて、怪我をしてないかを確認しようとしただけです」

「……怪我?」

「はい」


 さっき男の人に怖い目に遭わされそうになった女性への配慮が足りなかったと反省した俺は、すぐに謝ってとりあえず怪我の有無を確認した。

 すると、色白な女性は少し間を空けてから言った。


「怪我はない……です」

「そうですか、良かったです」


 ……耳が少し長いから、きっとエルフの人だな。

 顔はとても綺麗……というか、どこか本能的に魅入ってしまいそうな美しさを持っていて、肌は文字通り透き通ったような白色。

 服装は……かなり露出の多い服装で、元々露出の多い服装なのに、それが今はところどころへこんだり傷が入ったりしていて、さらに肌があらわになっていた……そして、そんなに露出しているのに加えて、ミレーナさんとはまた違う感じで体がとても整っている。

 色々とボリュームがあるというか、全体のバランスがとても美しいというか……とにかく、思わず見惚れてしまいそうな────じゃない、今きっと色々不安に思っているこの人の前で何を考えているんだ……!

 俺はそんな雑念を取り払って、真面目な話を始めた。


「どこか行く当てとかはありますか?」

「行く当てもないです」

「え?」


 行く当てもない……?

 何か訳ありなのかもしれないが、行く当てもないと言われるとどうしたものか困ったな……だが。


「とりあえず、そこの馬車の前に一緒に来てくれませんか?」

「……馬車でどこかに?」

「そうじゃなくて、そこでしばらく待ってたら、俺の師匠と頼れるSランク冒険者の人が来てくれるので、その人たちがきっとどうにかしてくれるはずです」

「その師匠のせいで私はこんな目に遭ってるんだけど……!」

「え?何か言いましたか?」

「な、何でも……」


 色白の女性は小さな声でそう言うと、一瞬足元をフラつかせた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫です……ただ、ここ数日何も食べてなくて」

「数日……!?」


 数日も何も食べていない状態なら、立っているだけでもかなり辛い状態のはずだ……アリアさんに馬車で待っているよう言われたが、帰ってくるまでにはまだ時間があるだろうし、その間に少しだけご飯を食べてもらうぐらいは良いだろう。


「それなら、一緒にご飯を食べに行きましょう……そんなに長い間は難しいですけど、とりあえず一食食べるぐらいの時間はあると思います」

「良いん、ですか?」

「はい!」

「ありがとうございます」


 感謝の言葉を言ってもらったからには、全力で手助けをして、この人の無事なところに送り届けないといけないな……そうだ。


「名前、聞いても良いですか?」

「……エテネーラ、です」

「エテネーラさんですね、俺はアディン=アルマークスって言います……それじゃあ、ご飯食べに行きましょうか」

「……はい」


 ということで、俺とエテネーラさんは一緒にご飯を食べに行って、特に何事もなくご飯を食べ終えると、そのまま一緒に馬車の前まで来た。


「あとはここで待つだけです」

「何から何までありがとうございます……あれ」


 エテネーラさんは、懐を探りながら「あれ」と呟いた。


「どうかしましたか?」

「……すみません、おそらく路地裏に大事なものを落としてしまったようなので、取りに行ってきます」

「一人だとまた危ないかもしれないので、俺もついていきます」

「……ありがとうございます」


 そして、俺とエテネーラさんは一緒に路地裏にやって来た……だが、一見したところ特に何かが落ちている様子はない。


「ここには無いみたいですね、もしかしたらご飯を食べに行った時に────」


 次の瞬間、俺は突然視界が暗転した────かと思えば、両腕が後ろから誰かに押さえられていて、完全に動かない……な、何が起きた!?

 ……違う、今は何が起きたかよりも────


「オス……男でも、君みたいに人が良いのは居るんだね、おかげで魔力もちょっと戻ったから、君のことは一番大事に飼ってあげ────」

「エテネーラさん!俺がどうにか時間を稼ぐので、その間に逃げてください!」

「……え?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る