第21話 アリアさんは代償にできない!
「さてと……アリア=フェルステ?色々と私たちの計画を邪魔してくれたわけだけど、大事な弟子をどうこうされたくなかったら、大人しく帰ってもらえる?」
「師匠、俺が勝手にやったことなので、そんなことは────」
「わかったよ」
……え?
「そんな、師匠────」
俺が異を挟もうとしたところで、アリアさんはこの魔王軍の女性に対してある要求をした。
「帰ってあげるから、その代わりアディンくんのことは返して」
そう言って、アリアさんは強い魔力を発した……だが。
「あのアリア=フェルステの弱点を返してって言われて返したりするわけないよね、でも命は取ったりしないから安心して?そんなことしたらどんな仕返しされるかわからないから、この子は私が大切に飼ってあげる」
この魔王軍の女性からしてみればそんな要求を呑む理由が無い……アリアさんの要求が通れば理想的だったが、そう簡単にはいかないようだ……俺が、アリアさんの弱点になってしまっている。
本当に……最悪だ。
……だが、だからこそアリアさんに言わないといけないことがあったため、改めてそのことを伝えることにした。
「師匠!今回のことは、俺の勝手な行動のせいで起きたことです、だから俺のことは気にせずに、いつものアリアさんの力でこの人のことを────」
「ごめんね、アディンくん……無理なの」
アリアさんは怒りでも悲しみでもない表情でそう答えた。
そして、その表情のまま続ける。
「前は、もう私には何もないからってどんな無茶でもできたけど、今は私にとって一番大事なアディンくんっていう存在が居て、その大事なアディンくんを代償にするようなことは……私にはできないよ」
「アリアさん……」
その言葉を聞いて、俺の中に嬉しいと思う気持ちと悲しいと思う気持ち、そしてアリアさんが伝えてくれた気持ちとこの状況とを照らし合わせたときに、その気持ちが仇になっていることが、俺にはただただ辛かった。
「師匠と弟子の感動のお別れもできたと思うから、その大事な弟子をどうこうされたくなかったら、アリア=フェルステはさっさとどっか行ってくれる?」
「……わかったよ」
今度こそアリアさんはそう言うと、本当に風魔法で空中に浮いて、どこかに飛び去って行ってしまった。
……そういえば、アリアさんはあんな話をしていた時でも、ずっと強い魔力を発し続けていたな。
それだけ感情が乱されていたんだろうか。
……アリアさん。
「良かった〜!君が来てくれて本当に助かったよ、アリア=フェルステ、あのドルデを無傷で倒したって聞いてたからどのぐらいの強さかなって思ってたけど、まさかあんなに強かったなんて……」
「ドルデ……?」
聞き覚えのない名前だ。
「知らない?二年前魔王軍の幹部だったオーガ族の男で、物理的な力だけなら当時魔王軍の中でも最強だったんだけど……アリア=フェルステを間近で見たら、ドルデに無傷で勝ったっていうのも納得したよ」
なるほど……アリアさんが倒した魔王軍幹部の人の話は知らなかったが、そういう人だったのか。
……ん?
「元とはいえ、魔王軍幹部だった人のことを、そんなに呼び捨てで話してもいいんですか?」
俺がそう聞くと、魔王軍の女性は呆れたように言った。
「はぁ?私は当時から魔王軍の幹部だったんだから、ドルデのことを呼び捨てで話すのは普通でしょ?ていうか私の方がドルデより先輩だったし」
「……え?……え!?ま、魔王軍の幹部!?じゃ、じゃあ、あなたが今回のクエストの魔王軍幹部の人なんですか!?」
「あぁ、そっか、君最初私のこと魔王軍に所属してるかどうかもわかってなかったもんね、慣れてくれば雰囲気だけで私が幹部ってことぐらいわかりそうだし、君ぐらいの力があったら余計にわかりそうなものだけど……やっぱり経験値ないんだね」
そう言った後、この魔王軍の女性……魔王軍幹部の女性は「ん?」と言ってから、俺に顔を近づけてきて怒った様子で言った。
「ていうか!私のこと魔王軍幹部って気づかないって、普通に失礼な話じゃない?こんなに辱めを受けるのは何年振りかもわからないよ、ちょっとずつムカついてきちゃった」
「────私はもう怒りすぎておかしくなりそうだけどね」
「……え?」
アリアさんの声が聞こえてきたと思った次の瞬間、魔王軍幹部の女性は炎魔法と一緒に吹き飛んだ……吹き飛んだというのは、少し吹き飛ばされた、とかではなく、本当にどこか見えないところまで吹き飛んでいった。
隣を見ると、そこには落ち着いた表情で怒っている様子のアリアさんの姿があって、アリアさんはすぐに俺の拘束を解いてくれた。
「アリアさん、ありがとうございます……でも、どこかに行ったはずのアリアさんがどうして────」
俺は抱いていた疑問を直接アリアさんに聞こうとしたが、アリアさんは落ち着いた表情と声音で言った。
「アディンくん、今日は帰ったらお説教だよ、どうしてこんなことしちゃったのか、帰ったらちゃんと聞かせてもらうからね」
「……はい、本当にすみません」
聞きたいことは色々とあったが、アリアさんとの約束を破ってしまった俺にそんなことを聞く権利がないことはわかっていたため、俺は何も聞かずにアリアさんと一緒に宿舎に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます