第18話 アディンくんを優先しよう!

 アリアさんとシュテリドネさんが膨大な魔力をこめた魔法を放ちかけるギリギリのところで、どうにか二人に一度落ち着いてもらうことに成功した。

 ……正直本当に危なかった、もし落ち着いてもらうのがあと三秒遅ければ街に多大な被害が出ていたことは間違いない。

 ……だが、落ち着いたと言っても、それは魔法を放つほどの感情の昂りは無くなったというだけで、主にアリアさんはまだ普通に怒っている様子だった。


「アディンくん!どうして止めるの!?」

「こんな街中であんな魔法使ったら大変なことになるからですよ!」

「私はもう十分大変な気持ちなんだけど!アディンくんがキラキラした目で先に防具店入っていくの見て『アディンくん可愛い〜、せっかくだから一人でのんびり防具見る時間あげよっかな〜』ってゆっくり防具店に歩いて行ったら、アディンくんがシュテリドネに手握られてるんだよ?」

「それは、確かに驚くかもしれないですけど────」

「驚くとかじゃなくて!アディンくんの手なんて私だって修行の帰りにアディンくんが疲れてる時ぐらいしか握ったことないのにシュテリドネが握ってたことに怒ってるの!」


 それを聞いたシュテリドネさんは、アリアさんに距離を詰めるとあくまでも落ち着いた様子で言った。


「怒り、というほどでもないが、それに類したことで、私はアリア=フェルステにはお願いしたいことがある」

「何?私より弱いのに、私にお願いできる立場なの?」

「その弱いということだが、私はまだアリア=フェルステに完全に負けたとは思っていない……だからこそ、今度は大会などではなく、名とプライドを賭けた本気の勝負をしてほしい」

「あぁ、はいはい、あの時は魔力の調子が悪かったとか、あの時はまだ全力じゃなかったとかそういう感じ?そんな言い訳で私は────」

「違う、魔法に関しては、完全に私の負けだと認めている、そこに異を挟むつもりはない……だが」


 シュテリドネさんは綺麗な姿勢で、細長い片手剣、レイピアを抜いて言った。


「私は本来だ、それで剣の使えないあの大会で魔法を主とするアリア=フェルステに負けてしまったのは仕方ないとしても、アリア=フェルステ……君は私のことを総合的に見て軽んじているように見えた、だからこそ、今一度全ての力を持って、再戦を」


 そう言うと、シュテリドネさんはそのレイピアをアリアさんに向けた。

 アリアさんは一度目を閉じると、ため息をついてからシュテリドネさんと目を合わせて、仕方なさそうに言った。


「わかった、相手してあげる、でもどうせ結果は変わらないと思うよ?」

「申し入れ感謝する、それなら早速場所を変えて────」

「え、今からですか!?」

「ん……?」


 しまった、黙って二人のやり取りを見届けるつもりだったのに、つい感情が先走って口を挟んでしまった。


「アディン=アルマークス君、今からだと何か問題が?」

「そうだよ?アディンくん、シュテリドネとの関係を早く切るためにも、早く決着つけた方がいいと思うよ?」

「それは……そうなんですけど、今日は師匠と一緒に防具買うのを楽しみに────」

「シュテリドネ、今の話なしね」

「え……?」


 アリアさんが短くそう言うと、ずっとあくまでも落ち着いていた様子のシュテリドネさんも、流石に驚いた様子を見せると、アリアさんは元気に言った。


「ごめんねアディンくん!そうだよね!アディンくん防具買うっていうの楽しみにしてたもんね!私もどうかしてたよ〜!アディンくんの楽しみよりもシュテリドネなんかのこと優先するなんて!」

「ほ、本当にすみません、子供みたいに駄々こねたみたいになって……でも、本当に今日師匠と防具買うのを楽しみに────」

「いいのいいの!私の優先順位はいつだってアディンくんが一番なのが普通なんだから!それに、アディンくんは普段から頑張って修行してあんまり私に甘えてくれないから、今日ぐらいはいっぱい私に甘えて!ね?」

「師匠……!」


 俺たちがそんなやり取りをしていると、シュテリドネさんは「そういうことなら今日は失礼しよう」と、思ったよりもすぐに引いてくれたため、俺とアリアさんは一緒に防具店に入った。

 そして────


「この絶対に怪我しなそうな防具がアディンくんにはいいと思うよ!」

「こんな顔から足まで重たそうな防具じゃ動けないですよ!」

「アディンくんに怪我してほしくないからだよ!」

「かえって前が見えなくて怪我しそうです!」


 俺のことが心配で変な提案をするアリアさんと一緒に二人で防具を選び、熟考の末に一つの防具を選んで、それを購入すると防具店を出た……念願の防具!

 この防具を着てクエストに出ることが、今から待ちきれない……!

 俺は気分の高まりを感じながら、アリアさんと一緒に宿舎に帰った。

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