第14話 アリアさんの戦いを観よう!
「……はぁ」
「……え?」
アリアさんのことが心配でアリアさんの名前を叫んだ直後、アリアさんは────空中に浮いていた。
比喩表現でもなんでもなく、ただただ空中に浮くことによって足元から出てきた大きな木の根を躱した。
「何も魔術機の使えないこの大会の中で、風魔法をコントロールすることによって浮遊するとは……」
どんな表情をしているのか、口を開いているのかどうかもこの観客席からでは見えないが、シュテリドネさんが動きを止めたということは、少なくともアリアさんが空を飛んだことに驚いてはいるんだろう。
だが、そんなアリアさんは空中に浮きながら顔だけを上に上げて空を見上げた。
「あ〜、最悪、やっちゃった〜」
「私の攻撃を避けただけでも名誉あることなのに、それを最悪と表現するとは……どこまでも癪にさわる」
「こんな大勢の観客が居ても、やっぱりアディンくんの声だけはちゃんと聞こえる……私を心配する声、それに心配してた表情、私からしたらあんな攻撃遊びみたいなものだったけど、それでもアディンくんのことあんなに心配させちゃうなんて……」
「アリア=フェルステ、さっきから聞いていれば、君は今こうして私と対峙している瞬間も、私ではない誰かのことを考えているな?」
「何言ってるの?ずっとそうだよ、一年前……ううん、もっと前から私はアディンくんのことしか考えてない……それで、アディンくんの師匠である私は、アディンくんの前で情けないところを見せるわけにはいかない────だから」
アリアさんがシュテリドネさんの方に顔を向けた────次の瞬間、アリアさんの上下左右に、それぞれ火、水、雷、土魔法で練り上げられた物質が出て来た。
それに対抗するように、シュテリドネさんも同じ属性の物質を周りに纏わせ────互いに同じ属性を放ち合う。
「っ……」
だが、火、雷、土と、その三つはすぐにアリアさんの魔力勝ちとなり、シュテリドネさんは少し負傷した……そして次に水魔法をぶつけ合った。
その水魔法は、今までとは違ってすぐに決着は着かなかった。
「最初に水魔法の応用魔法の氷魔法を使ってきたときから思ってたけど、水魔法が得意なんだね」
「っ、水魔法で、負けるわけには……」
「……私と戦える人は久しぶりだから────それに免じて、水魔法だけは引き分けってことにしてあげる」
いい勝負をしているように見えたが、今度は突然シュテリドネさんの足元から大きな木の根が出てきて、その木の根がシュテリドネさんを薙ぎ払うようにして吹き飛ばした。
その次の瞬間、司会者の人が高らかに言う。
「第一試合終了!勝者は、アリア=フェルステ!!」
「うおおおおお!!」
観客の人たちは大きな盛り上がりを見せた……一戦目から本当にハイレベルな戦いだったな。
……と、俺が一人でこの試合の振り返りに入って学べるところは学ぼうとしていると、空中に浮かんでいたアリアさんは、そのまま俺のところまで一直線に来た。
「アリアさん、お疲れ様でした」
「全然疲れてないよ!それより、心配させちゃってごめんね?」
「いえ、俺が勝手に心配しただけですから」
「アディンくんに心配されるって、私よく考えたらめっちゃ幸せ者じゃない……!?でも心配かけたくないこの矛盾……!どうにかならないかな〜!」
さっきシュテリドネさんと闘っていた時とは別人のように慌てふためいているアリアさんのことを見て、俺はどっちのアリアさんも好きだと感じた……そうだ。
「すみません、次の試合が終わったら今度は俺の番なので、俺もう向かっておきますね」
「うん!迷子にならないように送っていこっか?」
「迷子になんてなりませんから!」
そう言い切ると、俺は観客席から魔術大会参加者の控え室に移動した。
「いよいよ、俺のほとんど初の実戦形式の戦いが始まる!」
アリアさんにスライムすら倒せないと思われている俺なんかじゃ何もできないかもしれないけど、勝てるように頑張ろう!
そんな意気込みを胸に、俺の出番が来るとすぐに闘技場に入場した。
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