第12話 魔術大会に参加しよう!

 今日も訓練のために、アリアさんと一緒に冒険者ギルドの訓練所で修行をしていると、雰囲気に貫禄のある男性が俺とアリアさんの方に近づいてきた。

 また前みたいに、粗暴な感じの人が何か文句を言いに来たんだろうか。

 そんなことを思っていたが、前見た粗暴な男の人とは全然違って、その人はその貫禄ある姿からは想像もできないほどにとてもへりくだって言った。


「フェルステさん……!少しお伝えしたいことがあるんですけど……!」

「何?今アディンくんの修行中だから、早くして」

「はい……!」


 貫禄のある男性は、一枚のチラシを取り出すと、それをアリアさんに見せた……そこには大見出しで『魔術大会』と書かれていた。

 貫禄のある男性が、それに付け加えて相変わらずへりくだった様子で言う。


「どうか、フェルステさんには近々あるこの魔術大会に、我がギルドのSランク冒険者枠でご参加いただきたいのです……!」

「私がそういうの面倒って思ってるの知ってるでしょ?二年ぐらい前も言われた時断ったと思うけど」

「そこをなんとか……!魔法を扱うということになれば、やはりフェルステさんの右に出る方はSランク冒険者の方がたの中でも居ないのです……!」


 アリアさんは、やっぱり相当強いらしい。

 こんな貫禄のありそうな人にここまで言わせるなんて……


「だから、面倒だって言って────」

「師匠ってやっぱりすごいんですね」

「……え?」


 アリアさんは貫禄のある男の人から俺の方に視線を移した。


「このギルドのSランク冒険者の人たちの中でも一番魔法が上手なんて……やっぱりアリアさんは、俺の尊敬できる師匠です!」


 俺が素直にその気持ちを伝えると、アリアさんは俺の方を見て目を輝かせて言った。


「アディンくん……!……そういうことなら」


 アリアさんは、今度は落ち着いた目で視線を俺の方から貫禄のある男の人に移すと言った。


「本当なら面倒だから参加したくなかったけど、まぁ、アディンくんにかっこいいところ見せる珍しい機会だし?魔術大会で優勝っていう肩書きがあった方がアディンくんも安心できると思うから、参加してあげる」

「ほ、本当ですか!?え!?……本当ですか!?」


 貫禄のある男の人は、信じられない光景を見ているとでも言いたげに大袈裟に驚いている……が、俺は一つ思ったことがあったので、アリアさんに伝える。


「師匠、俺は別に魔術大会で優勝っていう肩書きがなくても、師匠の強さはちゃんとわかってますし、そんな肩書きがあってもなくても、アリアさんが俺の尊敬できる師匠ってことは絶対に変わらないです」


 俺がそう言うと、アディンさんはまたも俺に輝かせた目を向けて言う。


「またそんなこと言って〜!でも、箔があった方が何かと便利だと思うから、軽く優勝して来るよ!アディンくんにも私のかっこいいところ見せてあげたいから!」

「それなら……はい、楽しみにしてます」


 アリアさんは俺に笑顔を向けると、その後少しの間貫禄のある男の人と会話を済ませた……かと思いきや、貫禄のある男の人は、今度は俺に話しかけてきた。


「……君は、確かアルマークスくん、だったかな?」

「はい、そうです」


 アリアさんには下から話してる感じだったけど、俺に対しては物腰の柔らかい年上の人として対応してくれるようだ。


「……よかったら君も、魔術大会に出てみないかい?ギルドの訓練生枠が一つあるから、アリアさんの弟子という君の力も見てみたい」

「ええええええ!?」


 ────その言葉に誰よりも最初に驚きの反応を示したのは、俺ではなくアリアさんだった。


「ちょっと!それは困るんだけど!」

「す、すみません!迷惑でしたか……?」

「迷惑っていうか……アディンくんが本当は結構強いってことに気づかれ────じゃなくて!色々困るから!そういうの!」


 困る……?


「師匠……?困るって、何がですか?大会ってことなら命の危険はないと思いますし、ほとんど実践的に経験を積めるのでいい機会になるんじゃないですか?」


 俺が純粋な気持ちでそう聞くと、師匠は困ったような表情をした。


「それは……」

「……」

「……アディンくんにそんな真っ直ぐな目で見られたら断れないよ!」

「じゃあ、大会に出てもいいんですか!?」

「……うん」


 アリアさんは仕方なくといった様子でそれを承諾した。

 すると貫禄のある男の人が「では、そのように」と言ってペンを持って契約書のようなものにアリアさんと俺の名前を書き込んだ。

 ……俺はこの会話の間ずっと気になっていたことを聞いて見ることにした。


「あの……あなたも冒険者なんですか?」


 貫禄のある男の人に向かってそう聞くと、首を横に振って言った。


「いえ、私はこのギルドのギルドマスターです」

「え……!?そ、そうだったんですか!?」


 そんなすごい人でも、アリアさんには頭が上がらないのか……俺は改めて、アリアさんの凄さを知ることとなり、ギルドマスターさんが居なくなったあとは軽く修行をしてからアリアさんと一緒に宿舎に帰った。

 ……魔術大会、か。

 俺は近々の楽しみが一つできて、より一層修行を頑張ることを決めた。

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