第10話 アリアさんは怒っている!
「し、師匠……」
俺がそう呟くと、アリアさんはさっきまでの冷徹な表情を切り替えて、笑顔になって俺のことを見ながら言った。
「アディンくん!よく私が言ったことすぐに守って行動に移したね!まさか本当に私以外の、それもミレーナなんかに修行つけてもらってたっていうのはアディンくんのこと尾行してて驚いたけど、それでもちゃんと関係を終わりにしようとして『俺の師匠は、やっぱりアリアさんしか考えられないです』って言った時なんかは私思わず声出しちゃいそうになったよ!」
「そ、そうだったんですね」
どうやら、アリアさんは本当に俺とミレーナさんの会話を全て聞いていたらしい……尾行されていたことは、全く気づかなかった。
俺の隣に居るミレーナさんは、アリアさんが現れたのにも関わらず、全く動揺した様子を見せずに言った。
「アリアさん、いきなり水魔法を私に放つと言うのは、どういうことでしょうか?」
アリアさんは俺からミレーナさんに視線を移すと、またも冷徹な表情になって口を開いた。
「ミレーナ、私が一番怒ることって何かわかる?」
「さぁ、なんでしょうか」
「私からアディンくんを取ろうとすることだよ、ミレーナはそれをしようとしてた……だから、今回は容赦しない」
「いつまでもアディンさんのことをクエストに出して差し上げないアリアさんよりも、私の方がアディンさんの師匠に適していると判断しただけですよ」
「こっちの気持ちも知らないくせに」
「その気持ちでアディンさんの気持ちを踏み躙っているのでは?」
その言葉によって、アリアさんは怒りの頂点に達してしまったのか、丸い炎の球をいくつか周りに纏わせた。
そこまで大きくはないが、その一つ一つに膨大な魔力が込められていることが感じ取れる。
「植物を操る土魔法を扱う私に炎とは、賢い選択……ですが、少々残念です」
「残念……?」
アリアさんがそう聞き返すと、ミレーナさんは笑顔のままで言った。
「私の土魔法を警戒するような炎魔法を使うということは、つまり……アリアさんにとって、私の土魔法は警戒すべき対象ということですよね?いえ、もしかしたら土魔法だけで言えば、私はエルフですから、アリアさんよりも扱いが上手かもしれません」
「何が言いたいの?」
「ですから、もしアリアさんが土魔法だけで私に勝つ自信がないのであれば、少なくともアディンさんの土魔法の修行は私が行うべきだと言っているんです」
そう言われたアリアさんは、一度周りに纏っていた炎を消して言った。
「いいよ、ミレーナが得意な土魔法だけでやってあげる」
「アリアさんならそう言っていただけると思っていました」
ミレーナさんはそう言ってアリアさんに微笑みかけた、が……俺は、少し心配になっていた。
「師匠、本当にそんな挑発に乗っていいんですか?ミレーナさんは、本当に土魔法が上手で────」
「心配してくれてありがとねアディンくん、でも大丈夫だよ、ミレーナと私とじゃ格が違うから、アディンくんの師匠はすごいんだってことを、今から見せてあげるね」
そう言ってアリアさんは優しく俺に微笑みかける。
そのやり取りを見て、ミレーナさんは何か思うところがあったのか、隣に居る俺のことを抱き寄せて言った。
「アディンさん、アリアさんの応援ではなく、私の応援を────」
ミレーナさんが何かを言いかけた時、今度はこの部屋の植物の根が急成長して、ミレーナさんのことを襲った。
ミレーナさんはそれを咄嗟に避ける。
「まだ勝負は始まっていないのでは?」
「合図なんているんだっけ?ていうか、私の大事なアディンくんに触らないで欲しいんだけど」
「私にとっても大事なアディンさんです」
「私の方が大事に思ってるよ」
「いいえ、私の方が思ってます」
「……こんな狭いところだと、もしかしたらアディンくんに危害が及ぶかもしれないから、場所変えよっか」
「そうしましょうか」
今から行われようとしているのは、二人の模擬戦ではなく、土魔法だけという縛りがあるとはいえ、それでもおそらく本気の戦いだ……俺は、静かに部屋を出て行くアリアさんとミレーナさんの後ろを、緊張を覚えながらもついて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます