第9話 秘密の関係を終わりにしたい!

「ここがミレーナさんの部屋なんですね、なんだか甘い香りがします」

「一応乙女ですから、香りには気を遣っていますよ」


 ミレーナさんの部屋は、綺麗な花々や植物がたくさんあって、いかにもエルフの人といった感じの部屋だった。

 俺とミレーナさんは、対面になるように椅子に座ると、ミレーナさんの方から口を開いた。


「……それでアディンさん、もう一度要件をお伺いしてもいいですか?」


 俺は言われた通りに、もう一度要件を言う。


「はい、秘密の関係……具体的に言うなら、今まで何度かミレーナさんに修行をつけてもらっていたこと、それを今後は辞めたいんです」

「私の教え方などに、どこが不手際があったということでしょうか?もしそういうことなら、今後は改善させていただきますので、どのあたりがよくなかったのかを教えてください」

「教え方に不手際はなくて、むしろ完璧だったので、おかげさまで土魔法がとても上達してます……でも」

「でも?」


 俺は、ようやく今回の本題を切り出すことにした。


「土魔法が上達したことによって、アリアさんがそのことに違和感を感じたらしくて、その……他の誰かに修行をつけてもらっているんじゃないかって疑われて、それでもし教えてもらってる人が女の人だったらもうそんなことする気が起きないようにするって言われて」

「なるほど……やはり、アリアさんに気づかれないようにしたのは得策でしたね、ですが……そうですね、私も迂闊でした、アディンさんに魔法を教えて差し上げるのが楽しくて、つい得意な土魔法ばかりを修行していましたから……ですが、そういうことなら話は簡単です」


 話は簡単……?

 簡単ということは、やはり俺が言ったようにこの関係を終わらせること……だと思ったが、言い方的にはそんな感じでもない。

 俺は少し緊張を覚えながら、次のミレーナさんの言葉を待った。

 そして、ミレーナさんは明るい笑顔で言う。


「アディンさんが私の弟子になってしまえば、全て解決すると思うのですが、どうでしょうか?」

「……え?」


 俺がアリアさんの弟子をやめて、ミレーナさんの弟子になる……?


「そんなことできないですよ、俺は今まで一年もの間アリアさんに色々と教えてもらったんですから」

「ですが、一年もの間、アリアさんは一度もアディンさんのことを実戦に出させていない……私であれば、受付嬢としての権利も用いてすぐにでもアディンさんにピッタリのクエストを選定することもできます」

「ミレーナさんの弟子になれば、クエストに……」

「はい、当然アディンさんの力に見合っていないようなクエストを受けていただくことは、アディンさんが危険なのでできませんが、少なくともアディンさんが絶対に達成できるであろうクエストには、アディンさんが行きたいときに行かせて差し上げることができます」


 ……とても魅力的な話だ。

 ミレーナさんは、Sランク冒険者の人たちを除けばAランク冒険者の人たちよりも強いという話だし、俺の師匠となってもらう分には全く申し分ない。

 教え方だって丁寧で、普段から優しい……だが。


「すみません、俺の師匠は、やっぱりアリアさんしか考えられないです」

「……そうですか」


 心苦しかったが、この提案は断ることにした。

 クエストに出させてくれないこと以外は、俺にとってアリアさんは憧れで、かっこよくて、可愛い一面もあって、一緒に過ごしていると楽しい人だ。

 そんな人からの一年間分の想いを裏切って、他の人の弟子になることは……できない。


「本当にすみません、でも俺は、ミレーナさんのことも────」


 俺があくまでも、俺はミレーナさんのことを嫌いではなく、大切な人だと思っていることを伝えようとした時、一つの植物が伸びたかと思えば俺のことを優しくベッドの上に誘った。


「ミレーナさん……?」


 ミレーナさんは無言で俺と同じベッドの上に来ると、受付嬢制服のボタンを外し始めた。


「……この前教えて差し上げることができなかったことを、今から優しく教えて差し上げます、そうすればきっと、師匠はアリアさんかもしれませんが、恋仲になるのは────」


 ミレーナさんが何かを言いかけたところで、ミレーナさんの横をとても早い何かが通った……水魔法だ。

 ミレーナさんは体を横に逸らすことでその水魔法を回避していたが、おそらく俺では躱せなかっただろう。

 その水魔法が飛んできた方向を見ると、そこには────


「ミレーナ……今日という今日は、もう容赦しないから」


 今までに見たことがないほどに冷徹な表情をした、俺の師匠……アリアさんの姿があった。

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