第8話 アリアさんは気づいた!

「……」


 今日は、全属性を瞬時に切り替える修行をしていた。

 全属性というのは火、水、雷、風、土、闇、光の七種類だ。

 一部例外もあったりするが、基本的にはこの七種類が魔法の軸となっていると言われている。

 俺は才能に恵まれたらしく、一応全属性の魔法を使うことができるが、どうも雷属性と闇属性の魔法が苦手らしい。

 そんな修行をしていたわけだが、アリアさんが何故か険しい目で俺のことを見ていたため、俺はアリアさんに恐る恐る聞く。


「アリアさん……えっと、俺何かよくないことしましたか?」


 そう聞くと、アリアさんはすぐに険しい目をやめて、笑顔で言ってきた。


「ううん、ごめんね!考え事してただけ!アディンくんは順調に強くなっていってるよ!」

「そうですか、よかったです」


 その後もしばらく修行を続けていると、アリアさんが俺のことを見ながら迷いなく言った。


「アディンくん、土魔法上手になってるね」

「……え?そう、ですか?」

「うん、驚くぐらい上手になってるよ……前までは土を少し動かして小さな壁を作るのが限界だったのに、今は植物の根を急速に成長させる技を覚えてるなんて……」


 ……それはおそらく、俺がミレーナさんに土魔法を教わっているからだ。

 そう、俺はミレーナさんと一度模擬戦をしてから、アリアさんが居ない時は何度かミレーナさんのところに行って修行をつけてもらっている。

 そして、ミレーナさんが一番得意なのが土魔法ということだったので、基本的にミレーナさんから一番教えてもらうことになるのは土魔法、アリアさんはその土魔法の異常な成長力に気づいたんだろう。

 ……だが、ミレーナさんに修行をつけてもらっているということを、もしアリアさんに言ったら怒るかもしれないからと秘密にするようにミレーナさんに言われているため、このことは秘密にしないといけない。


「アリアさんの教え方が上手だからですよ」

「私、今まで植物の根を急速成長させること教えてないと思うよ?……アディンくん、私に隠してることがあるなら今のうちに言っとかないとダメだよ?」

「か、隠してることって、例えばどんなことですか?」

「例えば……私に隠れて、他の誰かに修行つけてもらってる、とか」


 ────そのアリアさんの言葉に、俺はゾッとした。

 そのアリアさんの例えが、今の俺の状況と全く同じだったからだ。

 ……だが、そのことは言えない。


「そんなことあるわけないじゃないですか」

「……それがもし男の人だったら、アディンくんも男の子で、同性同士の方が教わりやすいこともあったのかもってことで千歩ぐらい譲って許してあげるけど、もしそれが女だったら」

「……だったら?」

「多少荒っぽくても、私の力を改めてアディンくんに見せてあげることで、もう二度とそんなことする気が起きないようにしてあげる」


 ────アリアさんにそんなことをされるのは、普通に怖い。

 というか、まさかアリアさんにとってこのことがそこまで怒る要因になっているなんて……ミレーナさんはそのことがわかっているから、秘密の関係にしようと言っていたのか。


「……なんて、私のことあんなに慕ってくれてるアディンくんがそんなことするはずないと思うけどね」

「……はい」

「……」


 その日、俺は心の中で気まずさを覚えながら修行を続けた……そして、アリアさんと一緒に宿舎に帰ると、俺は冒険者ギルドへ行くために一人で外に出た。

 冒険者ギルドでミレーナさんのことを呼ぶと、いつもの優しい笑顔をしたミレーナさんが俺の元にやってきた。


「アディンさん、今日はどうされましたか?」

「ミレーナさん……秘密の関係、今日で終わりにしませんか?」


 俺がそう言うと、一瞬ミレーナさんから強い魔力を感じた────ような気がしたが、本当に一瞬だったため、気のせいだったのかもしれない。

 ミレーナさんはいつも通りの笑顔で言った。


「……少し、場所を変えましょうか」


 そしてミレーナさんについて行くと、そこはいつもの訓練場ではなく……冒険者ギルドにある、受付嬢の人用の宿舎で、ミレーナさんの部屋に招かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る