第6話 ミレーナさんと模擬戦をしよう!

 俺は今、一人で冒険者ギルドに来ていた。

 今日はアリアさんが用事の日で、用事の日はミレーナさんが俺に魔法や剣術を教えてくれるということだったので、ミレーナさんに修行をつけてもらおうと思ったというわけだ。

 ミレーナさんに修行をつけてもらったことは当然今までないため、どんな感じになるのか非常に楽しみだ。

 俺は早速、ミレーナさんじゃない受付嬢の人に話しかける。


「すみません、ミレーナ=ミリアスさんって居ますか?」

「はい、いらっしゃいますよ、少々お待ちください」


 受付嬢の人が笑顔でそう言うと、すぐにミレーナさんを連れてきてくれた。


「アディンさん?今日はどうされたんですか?」

「ミレーナさんの手が空いてたらでいいんですけど、良ければ俺に修行をつけてもらいたくて」


 するとミレーナさんは、両手を一度合わせて笑顔で言った。


「この前の話ですね!お任せください!アリアさんの代わりに、私がしっかりと教えて差し上げます!」


 ということで、俺はミレーナさんと一緒に、ギルドにある訓練場にやってきた……まずは力量を確認したいと言われたので、模擬戦をすることとなった。

 今回は魔法だけとか、剣術だけとかという縛りはつけていないので、両方を組み合わせながら行う模擬戦となる。


「アディンさんから動いてくださって結構ですよ」

「わかりました」


 俺は両手で木刀を構え、ミレーナさんは片手で木刀を構えている。

 俺とアリアさんは同じ人間という種族だが、ミレーナさんはエルフで、エルフは女性でも人間の成人男性平均身長よりも高いことが多く、ミレーナさんも俺より身長が高い……俺もあと数年したらミレーナさんの身長よりも高くなれるかもしれないが、今は俺の方が低いため、あまり正面からはやり合いたくない。

 俺は、真っ直ぐミレーナさんの方に行くと見せかけて、フェイントで後ろに回り木刀を振った。


「ふっ!」


 だが、それはミレーナさんに受け止められてしまった。


「驚きました……本当に、スライムどころかそれ以上のモンスターだって倒せそうなほどの勢いです、どうしてアリアさんはアディンさんのことをクエストに出して差し上げないのでしょう」


 ミレーナさんが何かを話していたが、俺は模擬戦中だということを忘れずにさらに続けて剣を振る。

 するとミレーナさんは、一度俺から距離を取った。

 だが────俺は、ミレーナさんに水魔法を放って攻撃した。

 水圧を持った水がミレーナさんの方に向かう────が、ミレーナさんはそれを軽く剣で弾いた。

 ……強い。

 とてもじゃないけど、普段受付嬢をしている人の動きとは思えない。


「アディンさんも、予想以上にお強いようです……ですが────やはり、一度もクエストに出ていないという、決定的な経験値の無さが仇となりましたね」


 ミレーナさんがそう言い放った直後、俺はとてつもなく硬いものに両手足を拘束された。


「誰が相手でもそうですが、特にエルフとの戦いの時は常に地面を気にしなければいけませんよ……そうでないと、このように植物によって四肢を拘束されてしまいますから」


 ミレーナさんに言われて改めて見てみると、俺の両手足を拘束しているのは確かに植物だった……土魔法の類で、植物を成長させたりして自在に操るというものだが、まさか何の前触れもなく一気にここまで成長させることができるなんて……俺が試しの炎魔法で植物を燃やそうとした時、ミレーナさんは俺の首元に木刀を当てて言った。


「勝負あり、ですね」

「……はい」


 模擬戦の決着が着くと、ミレーナさんは土魔法を解いてくれたため、両手足の拘束がなくなり自由に動けるようになった。


「今回は模擬戦でしたから良かったですけど、実戦ではしっかりと、特に今回のような身動きをできなくするような魔法には気をつけないとダメですよ?アディンさんは整った顔立ちをしておられますし、アリアさんのおかげか魔力量も多いので、拘束されるとあんなことやこんなことをされるかもしれません」

「あんなこと?」

「ご興味があるようでしたら、私の自宅でお教えいたしましょうか?」

「自宅……?今教えてくれないんですか?」

「えぇ、ここでは少し難しいことですので……ですが、アディンさんにはもしかしたら少し早いかもしれませんね」


 ミレーナさんは、頬を赤く染めて言った。


「そうなんですか……?」

「はい、もう少し歳を重ねてからか、私が我慢できそうになくなったら優しく教えて差し上げますね」


 そう言って、ミレーナさんは優しく微笑んだ。

 よくわからないけど、今の俺ではわからないことらしいため、少し残念だったが今日のところは諦めておくことにした。


「……それにしても、ミレーナさんは本当に強いですね、受付嬢じゃなくて冒険者とかでもできるんじゃないですか?」

「一応、Sランク冒険者の方々を除けば、Aランク冒険者の方々を含めても一番実力があるというように言われています」

「え……!?そ、そんなに強かったんですか!?」

「自分でそのような評価をするほど慢心してはいませんが、それなりの力量は示せると考えています」


 俺はそんな人と模擬戦をしていたのか……模擬戦と言っても、ミレーナさんはどちらかと言えば俺の動きを見ている感じだったから、全然本気ではなかったんだろう。


「ですので、私で良ければアディンさんにだけに、アリアさんが居ないときは今後も魔法や剣術を教えて差し上げます」

「ありがとうございます!今後もよろしくお願いします!」


 今日は模擬戦をしたので、軽く土魔法を教えてもらうだけで修行は終わって、俺は宿舎に帰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る