第5話 アディンくんを攻略しよう!①

「アディンくん!今日一緒にお出かけしようよ!」

「……またですか?」


 湖で修行をしたその翌日にアリアさんからそんなことを言われた。

 この前は模擬戦で負けたから仕方なくアリアさんと一緒に出かけに行ったけど、まだ一度もクエストに出れていない俺としてはすぐにでも強くなるために修行をしたいから、本来なら出かけている暇なんてない。


「そんな嫌そうな顔しないでよ!今日はアディンくんに美味しいもの食べさせてあげるから!」

「いつもアリアさんの作ってくれるご飯で十分美味しいです」

「……えっ?そ、そう?じゃ、じゃあ今日は出かけなくても────そうじゃないの!いいからいくよ!」


 ……結局、アリアさんがすると決めたら断れないのが今の俺の立場なため、俺は修行をしたいと思いながらもアリアさんについていくことにした。

 それにしても、こんなに何のきっかけもなく一緒に出かけタイト言ってくるなんて……もしかしたら、昨日アリアさんの様子がおかしかったことと関係しているのか?

 そんなことを考えながら道中をアリアさんと歩いていると、アリアさんが誰かとぶつかってしまったようで「きゃっ!」という高い声と共に俺の方に押される形で来て、俺のことを軽く抱きしめて動きを止めた。


「大丈夫ですか?」

「うん、ありがと」


 ……アリアさんならさっきの人を躱すことぐらい簡単だったと思うが、今は出かけることに意識が向いていてそこまで察知できなかったんだろうか。

 ……あれ?


「アリアさん?どうして離れてくれないんですか?」

「え?え〜っと……な、何か思うこととかない?」


 そう言って、アリアさんは体を押し当ててくる。

 思うこと……


「歩けないので離れてほしいです」


 そう言うと、アリアさんは俺から離れて怒った様子で言ってきた。


「昨日私のこと褒めてくれたのに、次の日にはそんな冷たいこと言うんだ!どうせ私はミレーナに比べたら何もかも未熟だもんね〜!」

「そんなことないですよ、アリアさんは俺の最強の師匠です」

「っ〜!……もう〜!」


 アリアさんは、感情のぶつけどころをなくしたようにそう叫ぶと「は、早く行くよ!」と、怒った様子でありながらもどこか満足げな様子でそう言った。

 アリアさんに連れてこられたのは、木々から取れる果物でを使って色々な甘いものを食べられるフルーツ店だった……だが。



「ここって人気なところですよね?いつも人がたくさん並んでて、今もたくさん並んでますし」

「ふふん!昨日アディンくんと宿に帰ってすぐ、私は一人でここに来てちゃんと予約しておいたの!」

「なるほど……」


 昨日、帰ってきて早々出かけてたのはここに来るためだったのか。


「アディンくん、意外と甘いもの好きでしょ?だから、今日はここでお腹いっぱい甘いもの食べてもいいよ!」

「え、本当ですか!?」

「うん!」

「ありがとうございます!」


 アリアさんと一緒に店内に入ると、俺はお言葉に甘えさせてもらうという形で早速フルーツ料理を注文して、それを口にした。


「甘くて美味しいです」

「良かった〜!」


 ……それからしばらくの沈黙の後、隣に座っているアリアさんが何故か俺に距離を詰めてきた。

 俺はしっかりと口に含んでいるものを飲み込み、アリアさんに聞く。


「どうかしたんですか?」

「ううん?何もないよ?アディンくんの近くに居たいなって……ねぇ、腕とか組んでもいいかな?」


 アリアさんは上目遣いでそう聞いてきた。

 ……どうして食べ物を食べてるのに腕を組まれないといけないのかがわからなかったため、俺は遠慮なく言った。


「今フルーツ食べてるので片腕使えないのは困ります」

「私よりフルーツの方が大事なの!?」

「え?どうしてそんなことになるんですか?」

「私、結構モテるんだからね!こんなに強くて美人だから当たり前だけど、結構モテるから!アディンくんが早く応えてくれないと他の所……には行かないけど!早くしないと私がアディンくんに……愛想尽かしたりもしないけど!とにかく早くしないとダメだからね!」

「モテる……?な、何の話ですか?」

「アディンくんの攻略は失敗、難易度高すぎるよ……」


 アリアさんは何かを呟くと、俺の隣で俺と一緒にフルーツを食べ始めた。

 ────そして食べ終えると、一緒に店内から出た。


「アリアさん、フルーツごちそうさまでした」

「いいよいいよ!美味しそうに食べてるアディンくん見て私もお腹いっぱいだからね!」

「お腹いっぱいなのはアリアさんもスイーツを食べてたからだと思います」


 俺たちがそんな会話をしていると、男女の恋人らしき二人が横を通り過ぎて行った……恋人。


「そういえば、アリアさんって恋人の人とか居ないんですか?居てもおかしくない……どころか、居ない方がおかしい気がするんですけど」

「居ないよ、今まで欲しいと思ったことなかったから一度も居たことなかったし」

「そうだったんですね、今も欲しいとは思ってないんですか?」


 俺がそう聞くと、アリアさんは俺の方を見ながら言った。


「……今は、まだ難しそうかな」

「そうですか」


 その後俺とアリアさんは一緒に宿舎に帰り、今日は休みの日として明日からまた修行を再開することにした。

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