第4話 師匠と約束をしよう!

「はぁ、はぁ」


 俺とアリアさんは、街近くにある湖に来ていた。

 湖に来た理由は、当然修行をするためで、今は炎の魔法の練習をしている。

 湖ならコントロールを外してしまっても、炎が水で消化されて大ごとにはならないからだ。

 それを数十分ほど続けていると、そろそろ俺の体力が切れてきた。


「そろそろ魔力もなくなってきたと思うから、この辺りで休憩にしておいた方がいいと思うよ」

「……はい」


 アリアさんにそう言われた俺は、その場に座り込んだ。

 するとアリアさんが「今日も頑張ったね」と労ってくれた……そして、ここからいつも、今日の修行について振り返りをする。


「今日の俺、どうでしたか?」

「うん、着実に魔力量も増えてると思うよ、コントロールの方はもう心配ないみたいだから、実戦でも問題ないよ」

「それなら────」

「クエストはまだダメだよ?いつどんな敵が、どこから現れるかわからないんだから!私も最初の頃に、Dランク相当のクエストだって言われてたのにそれが本当はBランクのクエストで、私としては力を証明できるいい機会だったから良かったけど、もし相手が悪かったら大変なことになるんだから!」

「油断したらいけないのは、わかりますけど……」


 ……ん?

 こういうやり取りはいつもしてることだから、今更いつもとは違う感情が湧いてくることはないけど、今アリアさんが言っていたことで少し気になったことがあったので、俺はそのことを聞いてみることにした。


「そういえば、アリアさんってどのぐらい前から冒険者になったんですか?」

「今のアディンくんと同じ十五歳だったと思うよ」

「俺と去年会った時にはもうSランク冒険者になってたと思うので、アリアさんは二年間だけでSランク冒険者になった……ってことですか?」

「ううん、一年ぐらいだったよ、実力的には最初からSランクだったと思うんだけど、その時点で受けられるクエストが面白そうなのなくて、私って面倒なのはやらない主義だったからギリギリまでサボっちゃってSランクになるのが遅れたの」

「なるほど……」


 つまり、最初から実力的にはSランク冒険者だったけど、アリアさんの性格のせいでSランク冒険者と認められるまで一年かかってしまったということか。


「……そうだアディンくん、今後冒険者をして行くつもりなら、改めて二つだけ私と約束してほしいことがあるの」

「約束……?」

「うん、一つ目は、独断でクエストに行ったりしないこと、もしアディンくんが私に隠れて勝手にクエストに行ったりしたら、それがどんな理由でも怒るよ!」

「……わかりました」


 俺としてはあまり嬉しいものではなかったが、アリアさんに弟子入りさせてもらっている立場の俺には、それを断る権利はない。


「二つ目は、できるだけ女の子に関わらないこと、特に美人で体つきがいい子」

「……え?」


 一つ目に関しては、理解したくはないけど弟子入りしてもらってる立場で勝手に独断でクエストに行くのは良くないこと、というのは一応話の筋は通っていた……だが、女の子に関わらないこと?


「それはどうしてですか?」

「ミレーナなんていい例だけど、あんなのが近くに居たらアディンくんの教育に良くないの、一応美人?で、体つきも?一応いいし?」

「どうして美人で体つきがいい人が近くに居ると教育に良くないんですか?」

「それは、集中力が半減しちゃうからだよ、現に私だってもし今から修行してって言われたとしても、隣にアディンくんが居たら集中力の八割以上アディンくんに取られちゃうから……私はもう修行の必要なんてないから十割アディンくんに集中してるけどね!」


 集中力が半減……一応まともなことを言ってるような気はするけど、何か別の意図を感じる。

 それに……そういうことなら、一つ大問題がある。


「じゃあ、アリアさんともあまり関わらない方がいいってことですか?」

「……え?」


 すると、アリアさんは何度か瞬きして驚いた様子だった。


「だって、アリアさんは美人な人で、普段は気にしてないですけど、体つきも、少なくとも俺からしたらいいと思うので」


 そう答えると、アリアさんはパンッと自分の両手を合わせて言った。


「二つ目の約束はやっぱりなし!だからアディンくんは、いつでも私に話しかけてきてくれていいからね!」

「は、はい」


 その後休憩が終わった俺とアリアさんは、そろそろ街に戻ることにした……その道中、アリアさんは────


「アディンくんが私のこと美人って……体つきもいいって言ってた!普段は気にしてないって言ってたけど、アディンくんもお年頃だし、もしかしたら……もしかしたら!?……Sランク級、ううん、それ以上の難易度だけど……挑戦するしかない……!」


 ずっと小さな声で、楽しそうに何かをぶつぶつと呟いていたが、俺は特に気にしないことにして、そのままアリアさんと一緒に街に戻り、いつものギルド宿舎に戻った。

 アリアさんは戻って早々、急いだ様子でどこかに出かけて行った。

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