第3話 受付嬢さんと秘密の関係になろう!
ある日、俺はアリアさんから買ってもらった黒のフード付きコートに黒のズボンの服を着て、アリアさんは今日用事がある日ということらしいので、今日は一人で冒険者ギルドに来て、クエストボードを見ていた……たまにこういう日がある。
「……」
アリアさんに許可を出してもらえないからクエストは受けられないけど、クエストボードを見るだけでも俺は楽しい気持ちになれた。
俺がずっとクエストボードを見ていると、女の人から声をかけられた。
「アディンさん、またクエストボードを見てるんですか?」
「はい」
話しかけて来たのは、この冒険者ギルドの受付嬢であるミレーナ=ミリアスさん。
Sランク冒険者の人は、基本的に一人だけ担当の受付嬢さんが付いて、何かそのSランク冒険者の人に適したクエストや、その人でしか達成できないクエストなどがあれば、その担当の受付嬢さんがSランク冒険者の人に話を通すという形を取っていて、ミレーナさんはアリアさんの担当受付嬢の人だ。
ミレーナさんは、エルフという寿命の長いことが有名な種族で、その黄金の髪と大人さを感じる綺麗な顔立ちには、初めてミレーナさんのことを見た時に驚いてしまったほどだ。
そして、まだクエストに一度も行っていなくてギルドになんの貢献もしていないような俺に、ミレーナさんはとても良く接してくれる性格まで優しい人で、受付嬢として本当に完璧な人だと思っている。
「アリアさんにも困りましたね、どうしてアディンさんのことをクエストに出させて差し上げないのでしょうか」
「師匠が言うには、俺はまだまだスライムにすら勝てないそうです」
俺は、基本的にアリアさん以外の人が居る時は、アリアさんのことを師匠と呼んでいる……そもそも俺は最初アリアさんのことを師匠と呼んでいたのだが、アリアさんの要望によって、名前で呼ばれたいと言われたので、俺は塩梅を探してアリアさんの前でだけはアリアさんのことを名前で呼ぶということで話が落ち着いた。
「時々アディンさんとアリアさんがお二人で特訓しているのを見ていますが、とてもスライムに負けるようには思いませんでした」
「でも、あの師匠がそう言うなら、きっとそうなんだと思います」
「アディンさんは、アリアさんのことを信頼しているんですね」
「はい、俺の師匠ですから」
俺がそう言うと、ミレーナさんは、一度何かを言いかけて口を閉じ、再度口を開いて言った。
「……アディンさん、Sランク冒険者の受付嬢になるためには、ある程度の力量が必要だと言われていて、最上級の事務作業に加えて、最低でも冒険者ランクBランク以上の力を必要とされることを知っていましたか?」
「え、そうだったんですか?」
「はい、そして私も、それなりの実力を持っているので、アリアさんの居ない時は私が魔法や剣術などを教えて差し上げることができると思うのですが……どうでしょうか?」
師匠がクエストとか何かの用事で居ない時は、一人で体力トレーニングをしたりするぐらいで時間の有効活用ができていなかったため、そうしてもらえるのはありがたいけど……
「受付とか、事務作業の方は大丈夫なんですか?」
「毎日受付しているというわけではありませんし、事務の方はおそらくどの受付嬢よりも私の方が早いと自負しておりますので、心配ありません……ただ」
「ただ?」
ミレーナさんは、俺の耳元に顔を近づけると、囁くように言った。
「アリアさんに言うと怒るかもしれないので、私たち二人だけの秘密ですよ」
「は、はい!」
こうして、俺はミレーナさんと秘密の関係になった。
ミレーナさんが俺から顔を離したその直後、冒険者ギルドのドアが勢いよく開かれたかと思うと、アリアさんが俺のところまで歩いてきた。
おそらく用事が終わったんだろう。
「やっぱりここに居た!アディンくん────と、ミレーナ?」
「こんにちはアリアさん、本日の用事はもう終わったんですか?」
ミレーナさんは微笑みながら聞いた。
「簡単な人付き合いだったから終わったけど……ミレーナ、あんまりアディンくんに近づかないでって言ったの忘れた?」
「理由に納得がいかなかったので忘れることにしました」
「え、師匠そんなこと言ってたんですか?どうしてそんなことを……?」
俺がそう聞くと、アリアさんはミレーナさんのことを指差して言った。
「こんなスタイルのエルフが近くに居たら、アディンくんの教育に悪いから!!」
そして指を差されたミレーナさんは、微笑みを崩さずに言う。
「それは私のことを魅力的だと褒めていただいているんでしょうか?ですが、スタイルというのであれば、アリアさんも魅力的だと思いますよ?色白で、体は絞れていて、かといって基本的には魔法をお使いになるので筋肉質というわけではなく柔肌で、胸部だって人族にしては大きくて形も整っているじゃありませんか」
ミレーナさんがそう言うと、アリアさんの方から一瞬魔力の圧が飛んできた……かと思えば、アリアさんがとても強い魔力を体全体から発しているのがわかる……そして、アリアさんは落ち着きながら言った。
「アディンくんの前であんまり私に恥をかかせないで、私はいつでもこのギルドごと消すことだってできるんだよ?」
……アリアさんは落ち着いているようで、怖い雰囲気でそう言った。
……こんなアリアさんを見るのは初めてだ、クエストに行かせてくれない以外は、アリアさんは今まで俺に優しい一面以外を見せることはなかった。
……アリアさんもSランク冒険者というだけあって、怒るとやっぱりかなり怖い、いつもの明るいアリアさんとは別人みたいだ。
俺は何もできずに、ただアリアさんのことを見て固まることしかできなかった。
「……その大事なアディンさんが、今のアリアさんのことを見て少々怖がっているようですが」
「……え?」
ミレーナさんにそう言われて俺のことを見たアリアさんは、すぐに魔力を解くと俺に笑顔で話しかけてきた。
「ア、アディンくん、今のは違うよ?私、本気でギルドごと消そうなんて思ってないから!ただ、ミレーナが私のこと挑発してきたからイラッとしちゃっただけで」
「気にしてないです……むしろ、やっぱり師匠がすごい人なんだってわかって、かっこいいって思いました!」
あのとんでもない魔力は、きっとアリアさんの本気ですらない。
それが直感でわかった……やっぱり、アリアさんは普段可愛さを持っているが、かっこよさも持っていて、本当に最高の師匠だ。
「アディンくん……!」
アリアさんは俺の発言に目を輝かせた。
「……でも、クエストに行かせてくれないところだけは好きになれないです」
「え〜!それにもちゃんとした理由が────」
その後、俺はアリアさんからちゃんとした理由という名のちゃんとしていない理由を聞かされてミレーナさんがその場を落ち着かせてくれたことによって、話は一度落ち着いた。
……今度、アリアさんが居ない時はミレーナさんのところに行って、魔法や剣術を教わってみることとしよう。
◇
第3話までお読みいただいた皆様のこの作品に対する素直な評価を知りたいので、いいねや☆、コメントなど、どのような形でもいいので教えていただけると幸いです!
◇
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